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『イザスト』と言う世界

 一ヶ月が経ち、俺は近々Bランクになる為の試験を受けることとなる。

 何人かと合同でやる為、日時などが決まったら連絡すると言う話なので、今日は皆で四葉亭の部屋に集まっていた。

 丸机の上には、俺がこの一ヶ月に図書館で調べたことを纏めて書いた紙が広がっている。

 俺達はジッとそれを見ていた。


 この世界は、大まかに言って四つの国で成っている。


 力こそが全てだと豪語する武闘派国家【セーデス帝国】ーー。

 魔法の研究に力を入れている魔導国家【サイラス連合共和国】ーー。

 唯一神を信仰している宗教国家【マルネス司教国】ーー。

 中立国家とされている【ヴァートス王国】ーー。

 アージン辺境区は、このヴァートス王国に位置している。

 何故アージン辺境区が始まりの街と言われるかは、実はこの近辺の魔物は比較的弱く、それぞれの国境と程近い為、冒険者達の玄関窓口となっているのだった。


 ヴァートス王国以外の各国はあまり仲は良くないが、今迄は大きな抗争もなく、何とか均衡を保っているらしい。


 それから、この世界の種族には人族・エルフ族・ドワーフ族・妖精族・マーメイド族・獣人族・悪魔族がある。

 獣人族と言っても多種多様らしく、兎耳族だとか猫目族だとか牙狼族だとか人虎族だとか…………まあ、数えたらキリがないので、一括りに獣人族と呼称しているそうだ。

 そして悪魔族だが、こちらは当然魔王に組する連中なわけで、悪魔族達が主にこの世界の人達にとって共通の敵と言う事だった。


 そして、先日俺がヘマをやらかしそうになったジョブチェンジについてだが、ウィストさんが言うように、やはり本当に出来るらしい。

 生まれながらにして、人は村人や貴族などと言った物に分類分けされるが、それとは別に成人になれば、皆が職業を選択する権限が与えられる。

 けれどそこには、適正審査?なるものがあるらしく、必ずしも望んだ職業になれるわけではないらしい。

 とは言っても、よっぽどのことがない限りは、問題無く希望の職業に就けるのだとか。

 それを行えるのが教会の神官と呼ばれる者達で、お布施とは名ばかりの、要は金を支払って職業変更をして貰うわけだ。

 だが、どこの世界にも例外は存在する。

 それが、所謂盗賊や野党などと言った輩だ。

 一度でも犯罪に手を染めれば、自動的に犯罪者の烙印を押され、職業欄が消えてそこには犯罪歴が表示されるのだとか。

 そして、そうなった場合、滅多なことでは職業変更することは出来ない。

 何故なら、教会があるのは大きな街などで、そう言った所は、犯罪者を徹底的に中に入れないようにしているからだ。

 なので、犯罪者になれば犯罪者のまま、生涯を終えるのがこの世界の常識らしい。

 ただし、その基準はいまいち曖昧で、人を殺した所で必ず犯罪者に落ちる訳では無いようだ。


 それから、この世界の人達の強さの平均だが、やはりそれ程強くはないらしい。

 特に人族は、種族の中でも最も最弱とされているようだった。

 けれど、それを武器や防具などで補うことが出来る。

 つまりは、より良い高性能な武具を身につければ、例え同じレベルの者が居たとしても、全く能力値が異なってくると言うのだ。

 武具には、様々な加護が付与されていたり、能力値を大幅に上げてくれたりもする。

 こちらも、要は金次第で強くなれると言うことになる。


 魔法についても、ここでは【詠唱】が一般的だ。

 ゲームでは、ただ魔法名などを口にするだけで、自動的に魔法などが発動された。

 けれど、こちらでは詠唱・短縮詠唱・魔法名・無詠唱があり、一般の者は詠唱無くして魔法を発動出来ないのだ。

 短縮詠唱以降は、それなりに能力がある者でないと無理のようだった。

 だから、前回俺が魔法名のみで焰華を召喚した時、あれ程驚いていたのだろう。

 因みに、最低限の知識の中に、こうすれば魔法が発動すると言うのが既に頭に入ってる俺は、他の魔法も難無く無詠唱でも発動出来る。

 けれど、当然俺は召喚士なので、魔法の威力はあまり宜しくない。

 本来は、無詠唱より詠唱の方が魔法の威力が上がる。

 だから、敢えて詠唱をする者も居るらしい。


 これらが、俺がこの一ヶ月で調べ上げたこの世界についてのことだ。

 後は魔物の強さだが、まだアージン辺境区近辺の魔物しか狩ったことがないので、正直な所、強さを比較する対象が少なかった為、今はまだ何とも言えない。

 Bランクになれば、護衛の依頼や遠方などの討伐依頼も受けることが可能になるので、そこら辺はおいおい調べていけば良いと考えている。


「さて、ここまで調べたわけだが…………何か気付いたことはあるか?」


 俺は四人を見渡す。

 テンは小首を傾げ、陸は表情は変わらなかったが、焰華とキラリは少しだけ思案してから口を開いた。


「まるでゲームみたいですね」

「ええ、私もそう感じたわ」

「え?え?どう言うこと?」

「………………」


 テンは二人の言ってることが分からずに、頭にハテナマークを沢山付けながら聞き返す。

 陸は何も言ってこなかったが、頭の良い子だ。

 漠然とは言え、何となく理解はしているのかもしれない。


 俺は二人の言葉に頷く。

 俺も二人と同様の意見だったからだ。

 そもそも、メニュー画面が見れることから、俺は既に引っ掛かりがあったのだ。

 いくら俺達が異世界人だからと言っても、本来この世界の人達が出来ないことを、平然とやってのける。

 それは『特権』と言うレベルではない。

 相手のステータスを覗き見ることが出来るのもそうだ。

 それがあるだけで、かなり相手より有利に事を進められるのは間違いないのだから。

 能力などはそのままで異世界に放り込まれるまでは良かったが、メニュー画面を表示出来てしまうと、(かえ)って現実とゲームの境目が曖昧になってしまうのは頂けない。

 初日こそゲームとの違いに戸惑いもしたが、こうなってしまうと、自称神の言うように、確かに“概ね”ゲームと一緒と言うのは頷ける。


 現段階でのゲームとの相違と言えば、通貨の違いと街に入るのに入市税が掛かること。

 図書館の利用にお金を預ける必要があること

 冒険者ギルドの規程についてや、焰華達進化した従魔の会話が可能となったこと。

 そして、当然ながら死が存在し、ゲームのように死んだらセーブポイントからやり直しなんて出来ないこと。

 それと、魔物も殺したらそこで終わりではなく、殺しても死体が残っていることなどが挙げられる。


 逆に言えば、その程度の違いだと言うことだ。

 これだけ違いがあれば充分だと思われるかもしれないが、俺はどうしても腑に落ちなかった。


 取り敢えずは、ここまでのことをテンにも出来るだけ分かりやすく説明してあげた。


「な、なるほど!」


 テンは、恰も理解した素振りでウンウンと頷いてはいたが、間違いなく理解出来てないだろう。

 俺は、そんな可愛いテンに苦笑する。


「皆は、ゲームの時の記憶は持ってるんだよな?」


 俺は皆に再確認の為に聞いてみた。


「う~ん……何となく?」

「そうね、断片的ではあるけど」

「はい。意識だけが朧気にそこにあるような……何とも形容し難いですが……」

「…………うん。そんな感じ」


 皆がそれぞれ、頭を捻りながら答えた。

 そう、一番の引っ掛かりはそこにあるのだ。

 この世界とゲームの世界が、あまりにも“繋がり”過ぎていた。

 いくらこの世界をモチーフにゲームを作ったとしても、ここまで似過ぎているのは異常だ。

 世界観は兎も角、ジョブチェンジが出来るだとか、武具で能力値が変動するだとか、完全にゲームさながらの世界だ。

 しかも、皆にはゲームの頃の記憶があると来たもんだ。


 寧ろ、俺が今置かれているこの状況は、まるで小説や漫画などに酷似していると感じた。

 最近人気のある異世界転移物の小説などでも、こうやってメニュー画面が開けたり、異世界の人達よりもチート能力が予め備わっていたり…………そんなわけで、普通より一歩も二歩も進みやすい道が既に用意されていたりする。


 通常の人間なら、そこでラッキーだと思うかもしれないが、俺はただ不快に感じるだけだった。

 それは俺が捻くれているせいもあるかもしれないが……。

 他人が用意したレールにただ乗っかるだけなど、何の為に異世界に来たのか分からない。

 確かに、焰華達と会話が出来るようになったのは喜ばしいことだ。

 けれど、それ以外は特に必要無い。


 これは、思った以上に厄介なことに巻き込まれてしまったかもしれないと、思わずにはいられなかった。


「…………皆、聞いてくれ」


 俺は四人を見渡す。

 四人の視線が一斉に俺に集まる。


「俺は本格的に魔王討伐を目指したいと考えてる。勿論、その前にこの世界のことを良く知る為に、当初の目的通りに世界を見て回るつもりだが、最終目標は打倒魔王だ」

「「「「……………………」」」」


 自称神は言った。魔王を倒せと……。

 俺は、そこに何か答えがあるような気がしてならなかった。


 皆が俺の言葉に耳を傾けていた。


「きっと、平坦な道のりではないだろう。寧ろ、危険な道のりかもしれない。魔王の実力が、ゲームと同じにしろそうじゃないにしろ、簡単に倒せるとは思っていない。最悪………………死ぬことだってあるだろう」

「マスター……」


 焰華が心配そうに声を掛けてくれる。

 俺はそれを想像しただけで、震えが止まらない。

 俺は勇者でもなんでもないのだ。

 そこまで勇気があるわけでもないし、俺自身が強いわけでもない。

 それでも、この世界の“真実”が知りたかった。

 こんなのはただの無謀に過ぎない。

 分かってはいても、誰かの掌の上で踊らされるなど、真っ平御免だった。

 これはただの自己満足だと分かっていた。

 だから、俺は一度大きく息を吸い込んでから、皆に向かってある決意を口にする。


「………………今後は、皆には自由意志で行動して欲しい。必要なら…………従魔契約も破棄して良いと考えてる」

「「「「え?」」」」


 皆が一斉に、疑問の声を上げる。

 これが、俺がこの一ヶ月に考え抜いた結論だった。

 今後のことを考えると、俺一人で何が出来るんだ?と思われるかもしれないが、この世界で新しく従魔を入手して、どうにかこうにか生き延びる手段を考えれば良い。

 けれど、皆は言うなれば、ゲームの世界から出てきたような存在だ。

 やっと自由に行動出来るようになったと言うのに、俺の我侭にこれ以上付き合わせて、自由を制限したくはなかった。

 四人には、これから幸せな日々が待っているかもしれないのだから……。

 ただし、従魔契約を破棄すればどうなるかは、俺にも分からない。

 今のまま人型でいられるのか、もしくは魔獣に戻るのか……。

 それでも、危険な旅に皆を巻き込むよりはマシだろうと俺は考えたのだ。


 俺の言葉を聞いて、テンの大きな双眸に、見る見る涙が溜まっていく。


「な……んで?何で?!ボク達のこと捨てないって言ったじゃん!!」

「……別に捨てるわけじゃない」

「じゃあ何で?!ボク達が弱いから?!それならもっと強くなるよ!!ちゃんとマスターの役に立ってみせるから!!だから…………!!」

「違うよ?テン…………そんなんじゃないんだ。テン達のことは誰よりも頼りにしているし、皆は俺以上に強いから、何も心配してない」


 俺は、テンの目線に合わせるように屈むと、努めて優しく語り掛けるように話した。


「じゃあ…………何で?」


 テンの瞳からは、最早大粒の涙が溢れていた。

 その姿に、俺の心が痛む。


「俺は皆のことが大好きだよ?」


 俺はテン、陸、キラリ、焰華の一人一人の目を見て言った。


「ゲームの頃から…………こんなことを言えば痛い奴に見えるかもしれないけど」


 俺は苦笑する。

 ただのプログラムでしかない存在に感情移入するなど、相当ヤバい奴に思われるかもしれないが、それでも俺にとっては、四人は俺の心の支えとなっていた。


「それでも、ゲームの頃から皆のことが大好きで仕方なかった。だから、皆には俺の従魔と言うのに縛られないで、自由になって欲しいんだよ」

「っわか……ん、ないよ…………そんなの……」


 テンは、涙が溢れる目を服の裾で擦りながら首を振る。

 俺はそんなテンの頭を、優しく撫でてやった。

 すると、それまで俺達のやり取りを黙って見ていた焰華が、徐に口を開く。


「…………それは、このまま従魔でも構わないと言うことですよね?」

「「え?」」


 俺とテンが同時に驚きの声を上げる。

 それは、流石に予想だにしていなかった言葉だった。

 焰華がそう言うと、他の二人もそれぞれ同意を示す。


「そうよね?だってマスターは『自由意志』って言ったのだから、私達の自由で従魔のままでいることも出来るってことよね?」

「…………うん。だから、陸はマスターの従魔のまま」

「は?え?ちょっと待っ……」

「そっか…………そうだよね?!」


 三人の言葉を聞いて、テンの顔がパァと明るくなる。

 既に涙は止まっていた。


「それじゃ!ボクもこれからもずっとマスターと一緒だ!!」


 テンが「やったー!!」と両手を上げて万歳して大喜びする。

 俺はそんな四人に困惑するばかりだ。


「あ、あのさ!皆分かってる?死ぬかもしれないんだよ?」

「あら?それなら、マスターこそ私達が居なくて、本当にお一人でどうにかなるとお思いですか?」

「うぐっ!!」


 いつもなら、俺を持ち上げてくれる焰華も、この時ばかりは流石に辛辣な言葉を投げかけてくる。

 俺は、焰華の言葉が事実だったので、何も反論は出来ずに情けない声を出して押し黙るしかなかった。


 そんな俺を見て、焰華もテンもキラリも、そして陸でさえも、顔に笑みが浮かんでいた。


「はあ~……もうどうなっても仕方ないからな?」


 俺は頭を抱えて苦笑するも、内心は皆の心遣いが嬉しくて仕方が無かった。


 こうして俺達は更に絆を強め、この先も、共に苦難の道を歩むことを決めたのだった。

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