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「そうか、俺、古厩屋敷で働くことになってたんだ」
「はい、御奉公に上がるのだと、聞かされていました」
「でも、俺も帰ってこれてうれしいよ、マジで」
「はい・・・」
ふみちゃんは胸に手を当てて、大きな瞳に涙をいっぱいにためている。
俺は心の奥の方に、何か暖かいものが湧くのを感じた。
「じゃ、行ってくるね」
「はい、お気をつけて」
集落から田んぼを通って川原に向かう。
いつの間にか実った稲穂が、重そうに茎をたわませていた。
その上には赤トンボが群れている。
ジタバタと夢中で足掻いている間にも、秋がそこまで来てるんだ。
道々、ニヤニヤが止まらない俺に小平太が尋ね掛けてくる。
「俊之介さ
何か良いことでも有ったのか?」
「ううん別に、何で?」
「いや、何でも無いなら良いのじゃ、うん」
ふみちゃんは俺の嫁、とか考えてるのは秘密。
やがてせせらぎの音と共に涼しい風が、汗ばんだ衿元を撫でて過ぎる。
長く伸びたススキの葉を両手で分けると、日射しを受けた波頭が、キラキラと輝くのが目に映った。
木陰を選んで腰を下ろすと、しばらくは、二人とも黙って青い波のうねりと岩に当たって砕ける水飛沫を見つめた。
「俊之介さ」
色んな思いに耽ってると、波の音の向こうから小平太の声が聞こえてくる。
「ワシの無理を聞いてもろうて、感謝いたす」




