12
「何でぇ、驚かせやがって!
そうならそうと言ってくれりゃあ、アッシだって逃げやしねぇのによ」
よっしゃ、油断しやがったな
「んなワケねーだろ!」
俺は、身体を丸めて渾身の体当たりをぶちかました。
若い男は胸を押さえ、弾け飛ぶように転がる。
「ぐっはあっ!」
横たわった男は、胸を押さえたまま苦しそうにあえぐ。
俺は、その男の衿と帯を掴んでもう1回転がし、無防備な背中にまたがって馬乗りに押さえつけてやった。
男は、苦しそうな息をつきながらも罵ってくる。
「ちくしょう!!
騙しやがって、汚ねえぞ!」
「自己紹介乙」
「んだぁこら!」
バタバタする男を必死で地面に押し付けた。
「いや、お見事お見事!」
明るい声に驚いて顔をあげて見ると、俺に協力してくれた商人の奇妙なくらい落ち着き払った姿が目に写った。
その後からは、縄を手にしたげん爺が近付いて来る。
二人は阿吽の呼吸で協力して、若い男を縛り上げた。
あんたらの方が見事だよ
そう言いたかったけど、俺も息が乱れてしゃべれない。
「ちくしょう!
俺が何したってんだ!
ウグッウググ!」
なおも騒ぎ立てる男に、げん爺が猿ぐつわを噛ませた。
無銭宿泊の未遂、が成立するかどうか怪しい気もするけど、男を土間の隅っこに転がして、この旅館のオーナー氏の登場を待つことにした。
が、その頃には、すっかり興奮からさめた俺は、やっちまった感を味わって落ち込んでいた。
天使を守ろうとしたとはいえ、自分の方から暴力を振るっちまった。
暴力に対する心のハードルが、低くなっちまったのか?
まさか、そんなこと・・・
そうかも知れない、でも認めたくはなかった。




