第37話 春祭り Scene1 春祭りの日
# 第37話 春祭り
### Scene1 春祭りの日
春。
森の木々にも新しい緑が増え始めた頃。
悠は、いつものように森を抜けて村へ向かっていた。
今日はリアと約束しているわけでもない。
ただ、天気が良かったので、なんとなく村へ行ってみようと思った。
いつもの道を歩く。
森を抜ける。
村が見えてくる。
――そこで。
悠は足を止めた。
「……」
いつもと違う。
村の入り口からして、雰囲気が違っていた。
道の両側には色とりどりの飾りが吊るされている。
広場には簡易的な屋台が並び、村人たちが忙しそうに料理や道具を運んでいた。
「これ、そっちに持っていって!」
「分かった!」
「料理はまだあるぞ!」
「子供たち、走るなよ!」
あちこちから声が聞こえる。
その間を、小さな子供たちが楽しそうに走り回っている。
いつもなら静かな村が、今日は別の場所みたいだった。
「……なんか、いつもと違う」
悠が呟く。
「悠!」
聞き慣れた声がした。
振り向くと、リアがこちらへ歩いてくる。
「来たんだ」
「……うん」
「今日は春祭りだからね」
「……春祭り?」
「そう。毎年、この時期にやるの」
リアが広場を指差す。
「みんな、朝から準備してたんだよ」
「……」
悠はもう一度、広場を見る。
屋台。
料理。
飾り付け。
たくさんの人。
そして。
音楽。
どこかから流れてくる明るい音が、村全体に響いている。
「……人、多くない?」
「うん」
リアは普通に答えた。
「今日は特に多いね」
悠は黙る。
視線が自然と人の少ない場所を探す。
けれど。
今日はどこを見ても、人がいる。
普段なら空いている道にも人がいる。
広場にもいる。
店の前にもいる。
子供たちは走っている。
村人たちは楽しそうに話している。
「……」
悠の表情が、少し固くなる。
胸の奥が、わずかに落ち着かなくなってきた。
騒がしい。
人が多い。
声が多い。
普段の村とは、まるで違う。
リアが悠の顔を見る。
「……大丈夫?」
「……」
悠は答えなかった。
ただ。
一歩だけ。
村の入り口の方へ戻った。




