Scene2 帰ろうとする悠
祭りの会場が見えた瞬間。
悠は、思わず一歩後ろへ下がった。
目の前には、いつもとは違う村の景色が広がっている。
通りには色とりどりの飾りが並び、屋台からは料理の匂いが漂っている。
あちこちから人の声が聞こえ、子供たちが走り回っていた。
笑い声。
話し声。
呼び込みの声。
普段の静かな村からは想像できないほど、人がいる。
悠はその光景をしばらく眺めていた。
そして。
「……帰ろうかな」
ぽつりと呟いた。
「え?」
隣にいたリアが振り返る。
悠は祭りのほうを見たまま答えた。
「……人、多い」
「ああ……」
リアは会場を見渡す。
確かに、今日は村の人がほとんど集まっている。
「うん。今日はお祭りだからね」
「……無理そう」
それだけ言うと、悠は踵を返した。
来た道を戻ろうとする。
やっぱり、こういう場所は苦手だ。
人が多い。
音も多い。
何をすればいいのかも分からない。
家に帰れば、いつもの静かな時間に戻れる。
そのほうがいい。
そう思っていた。
けれど。
リアは悠を追いかけて、腕を掴んだりはしなかった。
無理に引き止めることもしない。
ただ、少しだけ後ろから声をかける。
「そっか」
悠の足が止まる。
「……」
振り返る。
リアは、いつものように穏やかな顔をしていた。
「じゃあ、帰る?」
「……」
少し意外だった。
もっと、
『せっかくだから行こうよ』
とか。
『大丈夫だから』
とか。
そう言われると思っていた。
でも、リアはそれ以上何も言わない。
悠が帰りたいなら、それでいい。
そんな顔をしていた。
「……」
悠は祭りを見る。
やっぱり人が多い。
騒がしい。
苦手なのは間違いない。
帰りたい。
その気持ちは、まだある。
けれど。
隣にはリアがいる。
リアと一緒なら。
少しくらいなら――。
「でも」
リアが、ぽつりと言った。
「少しだけ一緒にいようよ」
悠が顔を上げる。
「……少しだけ?」
「うん」
リアは小さく笑った。
「疲れたら帰ろう」
「……」
無理に残る必要はない。
最後までいる必要もない。
嫌になったら帰っていい。
その言葉を聞いて、悠はもう一度祭りを見る。
人が多い。
やっぱり苦手だ。
でも。
今日は、リアが隣にいる。
「……少しだけなら」
悠がそう言うと。
リアは嬉しそうに頷いた。
「うん」
二人は、並んで祭りのほうへ歩き出した。
悠はまだ少し緊張していた。
それでも。
今度は、帰るためではなかった。




