Scene2 家を見る
森の奥へ進んでいく。
木々の隙間から、見慣れた小さな家が見えてきた。
「……」
悠は足を緩める。
窓から、淡い灯りが漏れていた。
自分で作った家。
最初はただ、雨風を防げればそれでいいと思っていた。
けれど今では。
ベッドがあって。
机があって。
食器があって。
自分が作った畑もある。
すっかり、自分の家になっていた。
そして。
「……ノア」
窓の向こうで、小さな影が動いた。
悠の姿に気づいたらしい。
「きゅっ」
小さな鳴き声が聞こえる。
悠は少しだけ口元を緩めた。
「……ただいま」
扉へ向かおうとして。
ふと、足を止める。
そして。
ゆっくり振り返った。
木々の向こう。
さっきまで歩いていた道の先に、村がある。
ここからでは、家々の形までは見えない。
ただ。
遠くに、小さな明かりがいくつも見えていた。
夕暮れの森の中に浮かぶ、いくつもの灯り。
悠は黙って、それを眺める。
村には人がいる。
ハンスがいる。
リアがいる。
リリがいる。
今日、自分に声をかけてくれた人たちもいる。
「……」
少し前なら。
あの明かりは、ただの「人がいる場所」だった。
できれば近づきたくない場所。
今は。
「……明日も行くか」
ぽつりと呟く。
自分でも、少し不思議だった。
村へ行けば疲れる。
人と話せば疲れる。
それでも。
明日も行ってもいいと思える。
悠はもう一度、村の明かりを見る。
それから、自分の家へ視線を戻した。
こちらには、暖かな灯りがある。
ノアが待っている。
静かに過ごせる、自分の場所。
そして。
遠くには、もう一つの灯りがある。
自分を知っている人たちがいる場所。
悠はしばらく、その二つを見比べていた。
やがて。
「……帰ろ」
今度こそ、家へ向かう。
扉を開ければ、ノアが待っている。
いつもの家。
いつもの暮らし。
それは何も変わらない。
ただ。
帰る場所は、ここだけじゃない。
そんな気がした。




