Scene2 変化
### Scene2 変化
悠は、ふと足を止めた。
村の通りを眺める。
さっきまで話していた村人たちは、もうそれぞれの仕事へ戻っている。
畑へ向かう人。
店を開ける人。
荷物を運ぶ人。
その中に、悠がいる。
少し前までなら。
こんな場所を歩くだけで、落ち着かなかった。
森に住んでいる。
一人で暮らしている。
よく分からない力を持っている。
きっと村の人たちからすれば、自分は変な少年だった。
実際、最初の頃はそういう視線を感じていた。
けれど。
今は違う。
「悠、明日頼むぞー!」
遠くからハンスの声がする。
「……うん」
悠は手を上げて答えた。
その横を、村人が通り過ぎていく。
「悠、パン食べたか?」
「……さっきもらった」
「そうか。じゃあまた今度な」
「……うん」
それだけだった。
特別なことは何もない。
珍しがられるわけでもない。
警戒されるわけでもない。
普通に挨拶される。
普通に頼られる。
普通に食べ物を渡される。
普通に名前を呼ばれる。
「……」
悠は黙ったまま、周囲を見渡した。
誰も自分を見ていない。
いや。
正確には、見てはいる。
けれど、それは以前のような「何者なんだろう」という視線ではない。
そこにいるから声をかける。
知っているから名前を呼ぶ。
それだけ。
悠は少しだけ首を傾げた。
「……不思議だな」
自分でも、何が不思議なのかよく分からない。
村の人たちが優しいからだろうか。
それとも。
自分が、この場所に慣れてきたからだろうか。
しばらく考えて。
悠は、ふと気づいた。
――普通に扱われている。
それだけだった。
でも。
それが、なんだか嬉しいような。
少し落ち着くような。
そんな気がした。
「悠ー!」
また声が飛んでくる。
振り返ると、リリがこちらへ手を振っていた。
「……何?」
「ノア、やっぱり貸して!」
「……だから、貸さない」
「えー!」
また村のどこかで笑い声が起こる。
悠は小さく息を吐いた。
そして。
ほんの少しだけ、口元を緩めた。
ここでは。
自分は「森に住んでいる変な少年」ではない。
ただの――
悠だった。




