Scene2 不思議な感覚
水路を流れる水を眺めながら、悠はその場に立っていた。
さっきまで村人たちが行き交っていた場所も、今は少しずつ静かになっている。
土を運んで、水路を直して。
ただ、それだけのことだった。
けれど。
妙に疲れていた。
隣に立っていたリアが、小さく息を吐く。
「疲れたね」
「……うん」
素直に頷く。
今日は人が多かった。
村の人たちと話した。
何度も声を掛けられた。
一緒に土を運んで、水路を直した。
思い返してみると、それだけでかなり疲れる。
リアが悠の顔を覗き込む。
「でも、楽しかった?」
「……」
悠は少し考えた。
楽しかった。
そう言われれば、そうなのかもしれない。
土を運んでいる間、村人たちはずっと話していた。
水路が直るたびに喜んでいた。
自分がやったことに対して、ありがとうと言われた。
そういう時間を。
楽しかった、と呼ぶのだろうか。
けれど。
悠の口から出てきたのは、別の言葉だった。
「……分からない」
「そっか」
リアは、それ以上聞かなかった。
ただ、悠の隣に並んで、水路を眺める。
しばらく二人とも何も言わなかった。
水の流れる音だけが聞こえている。
「……疲れた」
悠がぽつりと言った。
「うん」
リアが頷く。
「今日はいっぱい働いたもんね」
「……うん」
また静かになる。
悠は水路へ視線を戻した。
流れていく水は、以前よりずっと綺麗に流れている。
村の畑へ向かって、細い水の流れが続いていた。
今日、自分が直したもの。
特別な魔法を使ったわけではない。
ただ、土を運んで。
壊れたところを直して。
村の人たちと一緒に作業した。
それだけだ。
それだけなのに。
悠は、もう一度今日のことを思い返していた。
そして、小さく呟く。
「……でも」
リアが悠を見る。
悠は水路から目を離さないまま、続けた。
「……悪くなかった」
リアは一瞬だけ目を丸くして。
それから、ふっと笑った。
「うん」
それ以上は何も言わなかった。
悠も、それでよかった。
楽しかったのかどうかは、まだ分からない。
人が多い場所は、やっぱり疲れる。
知らない人と話すのも、やっぱり苦手だ。
それでも。
今日ここにいたことを、後悔はしていなかった。
水路を流れる水を眺めながら、悠は思う。
――悪くなかった。
その感覚が、少しだけ不思議だった。




