第30話 村の日常 Scene1 ミーナのパン屋
村へ来ると、悠はいつものようにパン屋へ向かった。
店の前には、焼きたてのパンが並んでいる。
扉を開けると、香ばしい匂いが広がった。
「いらっしゃい――あ、悠」
ミーナが顔を上げる。
「……こんにちは」
「こんにちは」
ミーナは笑いながら、店の奥へ入っていく。
しばらくすると、紙に包まれたパンを持って戻ってきた。
「悠、これ持っていきな」
「……?」
差し出されたパンを見る。
まだ少し温かい。
「……いいの?」
「うん」
ミーナは当然のように答えた。
悠はパンを受け取る。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
悠はパンを眺める。
村に来るたび、何かをもらっている気がする。
最初は、お近づきのしるしだった。
その後も、野菜を持ってきたお礼だと言われたり、余ったからと言われたり。
けれど。
「……いつもの?」
悠が呟いた。
「ん?」
「……いつものことって」
さっきミーナが言った言葉を思い出す。
ミーナは少し笑った。
「そう、いつもの」
「……」
悠は黙ってパンを見る。
いつもの。
その言葉には、まるで自分も含まれているようだった。
特別な客でもない。
森に住んでいる変な少年でもない。
村に来れば挨拶をして、パンを受け取って。
また次に来る。
それが、いつの間にか「いつものこと」になっている。
「……そっか」
悠は小さく頷いた。
「じゃあ、また寄ってね」
「……うん」
パンを抱えて、店を出る。
外の空気はいつもと変わらない。
村の人たちが行き交い、いつものように声が聞こえる。
悠は手の中のパンを見る。
「……いつもの、か」
少しだけ、不思議な気分だった。
でも。
嫌な感じはしなかった。




