Scene3 初めての農業作業
「じゃあ、今日はここを整えるぞ」
ハンスが畑の一角を指差した。
悠もその隣に立つ。
いつもなら、ここで魔法を使えばいい。
土を動かして、形を整える。
それなら数秒で終わる。
悠は手を前に出した。
「待て待て」
「……?」
ハンスが慌てて止める。
「今日は手でやってみろ」
「……手で?」
「そうだ」
ハンスが悠に一本の鍬を渡す。
悠は受け取った。
ずしりとした重さが手に伝わる。
「……これで?」
「ああ。土を起こしてみな」
悠は鍬を構えた。
そして、見よう見まねで振り下ろす。
ザクッ。
土に鍬が入った。
「……」
思ったより、重い。
悠はもう一度振る。
ザクッ。
今度は少し浅い。
「……」
ハンスが横から見る。
「もうちょっと力を抜け」
「……力を抜く?」
「ああ。鍬の重さを使うんだ」
悠は言われた通りにやってみる。
ザクッ。
さっきよりは、うまく土に入った。
「そうそう」
ハンスが頷く。
悠はそのまま畑を耕していく。
けれど、しばらくすると土の高さがばらばらになってきた。
「……」
「そこはもう少し浅く」
「……こう?」
悠が鍬を入れ直す。
「そうそう」
ハンスは満足そうに頷いた。
悠は黙って作業を続ける。
ザクッ。
ザクッ。
土を起こして、ならしていく。
魔法なら、もっと簡単だった。
疲れることもない。
時間もかからない。
なのに――。
「……難しい」
思わず、悠の口から言葉が漏れた。
ハンスは笑った。
「だから面白いんだ」
「……」
悠は鍬を握ったまま、少し考える。
難しい。
思い通りにならない。
だからといって、嫌というわけでもない。
むしろ。
自分で土を触って、少しずつ形を整えていく。
それが、なんとなく不思議だった。
悠はもう一度、鍬を振り下ろす。
ザクッ。
今度は、さっきより少しだけ綺麗に土へ入った。
「……」
悠はその場所を見た。
ほんの少しだけ。
自分でやったことが、うまくできた気がした。




