Scene3 第二章ラスト
家の中に入ると、いつもの景色が広がっていた。
けれど――。
少し前とは、何かが違う。
テーブルの上には、村でもらったパンが置いてある。
その隣には、今日リアと一緒に作った料理。
壁際には、ドルフに直してもらった農具が立てかけてある。
棚の端には、リリが置いていった小さなおもちゃ。
村長からもらったものもある。
どれも、最初からここにあったものではない。
悠がこの森で一人で暮らし始めた頃には、何もなかった。
ただの家だった。
必要なものを作って、食べて、眠る。
それだけだった。
けれど今は違う。
パンを見ると、ミーナの顔を思い出す。
直された農具を見ると、ドルフの無言の仕事を思い出す。
小さなおもちゃを見れば、リリがノアと遊んでいた姿が浮かぶ。
そして隣には、リアがいる。
悠は部屋の中をゆっくり見回した。
「……」
静かな家だった。
森の音が聞こえる。
ノアが小さく鳴いている。
リアが料理を片付けている。
以前なら、それだけで十分だった。
今も、静かなほうが好きだ。
人が大勢いる場所は疲れる。
村に行けば、やっぱり疲れる。
一人の時間だって、必要だ。
それでも。
悠は、部屋の中にあるものをもう一度見た。
そして、小さく息を吐く。
「……人、増えたな」
ほんの少しだけ、口元が緩んだ。
嫌ではなかった。
むしろ――。
「……まあ、これくらいなら」
それだけ言って、悠は椅子に座った。
最初は、自分だけのために作った家だった。
今は、誰かが来る。
誰かと食べる。
誰かからもらったものがある。
それでも、ここは静かだった。
だから悠は思う。
このくらいなら。
このくらいの距離なら。
このくらいの人たちなら。
――一緒にいても、疲れない。
森の小さな家に、今日も明かりが灯っている。
一人で暮らすために作った家は、いつの間にか。
少しずつ、帰る場所になっていた。




