Scene3 悠の困惑
夕方。
リアが帰る前に、悠は家の中をもう一度見回していた。
リアの椅子。
ノアの小屋。
棚に並んだ食器。
村でもらったパンや塩、蜂蜜。
少し前まで、こんなものはなかった。
悠一人で暮らすには、必要のないものばかりだった。
「……」
悠は椅子に座り、部屋を眺める。
いつの間にか、この家には人が来るようになっていた。
リア。
ミーナ。
ドルフ。
リリ。
村長。
一度だけではない。
何度も来ている。
「……人、多くない?」
悠が呟く。
リアが振り返った。
「そう?」
「……うん」
悠は頷く。
やっぱり多い。
最初は一人だった。
それが二人になって。
三人になって。
気づけば、何人もこの家に来るようになった。
以前なら、それだけで落ち着かなくなっていたはずだ。
人がいる。
話しかけられる。
何かを答えなければいけない。
そう考えるだけで疲れていた。
リアが悠を見る。
「でも、嫌?」
「……」
悠は黙った。
すぐには答えられなかった。
嫌か、と聞かれると――
分からない。
人が増えた。
それは確かに落ち着かない。
一人の時のほうが静かだ。
何も気にせず過ごせる。
それでも。
リアが来ることを嫌だとは思わなくなっていた。
ミーナからパンをもらったことも。
ドルフが農具を直してくれたことも。
リリがノアと遊んでいることも。
村長が様子を見に来ることも。
どれも、悪い記憶ではない。
むしろ――
少しだけ、嬉しかったような気もする。
悠はしばらく考えた。
そして、ゆっくり口を開く。
「……分からない」
リアは少しだけ笑った。
「そっか」
それ以上、何も聞かなかった。
悠も、それでよかった。
嫌ではない。
でも、好きともまだ言えない。
ただ――
誰かがこの家に来ることを、以前ほど嫌だとは思わなくなっていた。
悠は窓の外を見る。
森は静かだった。
その静かな森の中にある小さな家に、少しずつ人の気配が増えている。
悠はそれを眺めながら、まだ自分でもよく分からない気持ちを抱えていた。




