第二十四話 村の隣人 Scene1 村人が家に来る
森の中の小さな家。
そこは以前まで、悠とノアだけの場所だった。
静かで。
人の声もなく。
必要な時だけ森へ出れば、それでよかった。
けれど最近は――
少し様子が変わってきた。
「悠ー」
朝、玄関を開けると、ミーナが立っていた。
「パン、持ってきたよ」
「……パン?」
「この前、野菜をたくさんもらったからね」
そう言って、焼きたてのパンが入った袋を渡してくる。
「……ありがとう」
「また食べてね」
ミーナが帰ったと思ったら、今度は別の足音が聞こえてきた。
「……?」
ドルフだった。
「農具」
短く言って、修理した農具を悠に渡す。
「……直った?」
「直った」
「……ありがとう」
ドルフはそれだけ言うと、帰っていった。
悠が家に戻ろうとすると――
「悠!」
今度はリリだった。
「ノアいる?」
「……いる」
「見たい!」
リリは家の中へ入るなり、ノアを見つけた。
「ノアー!」
「きゅー!」
二人はそのまま庭へ飛び出していった。
「待って、ノア!」
「きゅー!」
悠はその様子を玄関から眺める。
しばらくすると、今度はゆっくりとした足音が近づいてきた。
「こんにちは」
「……村長」
エドガーだった。
「少し様子を見に来ただけだよ」
「……そう」
「何か困ったことはないかね?」
「……ない」
「それならよかった」
村長は家の周りを少し眺める。
畑。
井戸。
薪置き場。
そして、庭で遊ぶリリとノア。
「賑やかになったな」
「……」
悠は何も答えなかった。
村長が帰ったあと、森はまた静かになった。
けれど――
完全に静かになったわけではない。
家の前には、ミーナが置いていったパン。
修理された農具。
庭にはリリとノアが走った跡。
さっきまで、人が何人もいた。
悠は玄関の前に立ったまま、周囲を見る。
「……」
いつからだろう。
この家に、自分以外の人が来るようになったのは。
最初はリアだけだった。
それが少しずつ増えている。
悠は森を見回す。
静かな森。
小さな家。
そして、その周りに少しずつ増えていく人の気配。
「……」
悠は何も言わず、家の中へ戻った。
以前とは、少しだけ違う家になっていた。




