第三話 異世界の朝 Scene1 朝
――チュン、チュン。
遠くから聞こえてくる、小さな鳥の声。
悠はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした視界に、見慣れない木の天井が映る。
数秒ほど、そのまま天井を眺める。
そして――。
「……朝か」
昨夜のことを思い出す。
異世界に来て。
森の中を歩いて。
自分で家を作って。
ベッドまで作って。
そのまま寝た。
「……本当に異世界なんだな」
まだ少しだけ、現実感がない。
けれど、耳を澄ませば分かる。
鳥の声。
木々の葉が風に揺れる音。
遠くから聞こえる水の流れる音。
そして、どこかで小さな動物が動く気配。
地球にいた頃の朝とは、何もかもが違っていた。
悠はベッドから起き上がる。
そして、窓の前まで歩いた。
昨日は閉めたままだった窓。
少しだけ迷ってから、手をかける。
――カチャ。
窓を開ける。
その瞬間。
ふわっ、と冷たい風が部屋の中へ入り込んできた。
「……」
悠は思わず目を細める。
朝の空気だった。
ひんやりとしていて、澄んでいる。
森の木々の間から、朝日が差し込んでいた。
黄金色の光が葉の一枚一枚を照らし、木々の隙間から細い光の筋が伸びている。
昨日見た森とは、少し違って見えた。
昼間は緑一色に見えた木々も、今は朝日に照らされて淡い色に染まっている。
葉の先には、小さな水滴が残っていた。
朝露だ。
それらが太陽の光を受けて、きらきらと輝いている。
「……綺麗だな」
自然と、そんな言葉が出た。
空を見上げる。
木々の向こうには、雲の少ない青空が広がっている。
鳥が一羽、木々の間を飛んでいく。
少し離れた枝には、見たことのない小さな鳥が止まっていた。
青い羽。
白い腹。
そして、長い尾。
悠が見ていることに気づいたのか、その鳥は首を傾げる。
「……おはよう」
もちろん、返事はない。
鳥は一度だけ鳴くと、別の木へ飛んでいった。
「……まあ、そうだよな」
悠は小さく笑った。
窓から外を見る。
目の前には、昨日自分で選んだ場所。
その先には、どこまでも続いている森。
木々の間を風が通り抜けるたび、葉が一斉に揺れる。
ざあっ――。
その音が、まるで森そのものが目を覚ましているように聞こえた。
鳥が鳴く。
風が吹く。
木々が揺れる。
遠くでは水が流れている。
それだけ。
人の声もない。
車の音もない。
機械の音もない。
ただ、自然の音だけがある。
悠はしばらく、その景色を眺めていた。
昨日までは、ただ「人がいない場所」だと思っていた。
けれど。
朝になってみると、少し違って見える。
ここには、ここでしか聞けない音がある。
ここでしか見られない景色がある。
そして――自分の家がある。
「……悪くない」
昨日と同じ言葉が、自然と口からこぼれた。
悠は窓を開けたまま、しばらく朝の森を眺めていた。
異世界で迎える、最初の朝。
それは、とても静かで。
思っていたよりも、ずっと心地よい朝だった。




