Scene3 何もしない
料理を食べ終わっても、雨は止まなかった。
窓の外では、相変わらず雨が降っている。
屋根を叩く音。
木々を濡らす音。
時々、遠くで水の流れる音も聞こえてくる。
リアは食器を片付けると、一冊の本を手に取った。
「これ、読んでてもいい?」
「……うん」
リアが椅子に座る。
開いたのは、薬草について書かれた本だった。
見慣れない植物の絵と名前が並んでいる。
悠も自分の本を取り出した。
二人とも、特に話すことはない。
リアは薬草の本を読む。
悠は別の本を読む。
ただ、それだけだった。
ページをめくる音が、時々聞こえる。
「……」
悠は本を読みながら、ふと顔を上げた。
向かいにはリアがいる。
静かに本を読んでいる。
何かを話しかけてくるわけでもない。
悠も、何かを話す必要はない。
以前なら、誰かが同じ部屋にいるだけで落ち着かなかった。
何か話さなければいけない。
何か返さなければいけない。
そんなことを考えてしまって、疲れていた。
でも今は違う。
「……」
悠は再び本へ視線を戻す。
特に何も起きない。
雨が降っている。
本を読んでいる。
それだけ。
それなのに、不思議と落ち着いていた。
しばらくして、リアがページをめくる。
悠もページをめくる。
また静かになる。
会話はない。
けれど、気まずくもない。
ただ同じ家の中で、それぞれ好きなことをしている。
そんな時間が、少しずつ当たり前になっていた。
悠は本を読みながら思う。
「……」
誰かと一緒にいるのに、疲れない。
前にも、そんなことがあった。
あの時は、少し不思議だった。
今は――
もう、それほど不思議ではない。
雨はまだ止まない。
それでも、悠は本を閉じなかった。
リアも、何も言わない。
二人はそのまま、静かな時間を過ごしていた。




