Scene3 リリが家を気に入る
しばらくして。
「疲れたー!」
リリが戻ってきた。
その後ろを、ノアが元気に走っている。
「きゅー!」
「元気だね、ノア」
リアが笑う。
リリは息を整えながら、悠の家を見上げた。
「ねえ」
「……?」
「ここに住んでるの?」
「うん」
悠が頷く。
リリは家をじっと見る。
木で作られた壁。
大きめの窓。
きちんと整えられた玄関。
外には畑があり、少し離れた場所には井戸もある。
子供の目から見ても、普通の小屋には見えなかった。
「すごい!」
リリが目を輝かせる。
「……普通」
悠は首を傾げる。
「普通じゃないよ!」
「……そう?」
「だって、こんなに大きいし、畑もあるし!」
リリは家の周りを見回す。
「それに井戸もある!」
「……便利だから」
「お風呂もある?」
「……ある」
「お風呂まで!?」
リリが驚く。
悠は少し困った。
「……普通だと思うけど」
「絶対普通じゃないよ!」
リリはそう言って、家の中を見たいと言い出した。
リアも笑いながら悠を見る。
「入ってもいい?」
「……うん」
悠が扉を開ける。
リリは中へ入ると、また目を輝かせた。
「わあ……!」
机。
椅子。
棚。
食器。
収納。
生活に必要なものが、きれいに揃っている。
「ここでご飯食べるの?」
「うん」
「ここで寝るの?」
「うん」
「一人で?」
「……うん」
リリは家の中を見回した。
「すごいなあ……」
悠はその様子を眺める。
自分にとっては、いつもの家だ。
毎日ここで暮らしている。
朝起きて。
ご飯を食べて。
畑を見て。
風呂に入って。
眠る。
ただ、それだけの場所。
けれど。
初めて見る人からすると、少し違って見えるらしい。
「……」
悠も改めて家の中を見回した。
最初は、ただ雨風をしのげればいいと思って作った小屋だった。
それがいつの間にか、家具が増えて。
畑ができて。
井戸ができて。
風呂までできた。
「……普通じゃないのか」
悠が小さく呟く。
「普通じゃないよ!」
リリが即答した。
「……そっか」
悠は少しだけ考える。
自分には普通。
でも、他の人から見ると違う。
そんなことを考えるのは、初めてだった。




