第十九話 ドルフ Scene1 壊れた道具
昼前。
悠は畑で土を耕していた。
いつものように、黙々と農具を動かしていく。
土を起こして、畝を整える。
特に難しい作業ではない。
そのまま何度か道具を振った、そのときだった。
「……あ」
手に伝わる感触が、突然軽くなった。
悠が手元を見る。
農具の柄が、途中からぽっきりと折れていた。
「……壊れた」
折れた柄を持ったまま、悠はしばらく見つめる。
どうしよう。
自分で直せなくもない。
創造魔法を使えば、もっと簡単に新しいものを作れる。
けれど。
「どうしたの?」
畑の近くにいたリアがやってくる。
「……これ」
悠が折れた農具を見せる。
「ああ……壊れちゃったんだ」
「……うん」
リアは農具を眺めてから、少し考えた。
「村の鍛冶屋に持っていけば?」
「……鍛冶屋」
「うん」
リアが頷く。
「直してもらえると思うよ」
「……」
悠は折れた柄を見る。
村。
また村に行くことになる。
人がいる。
知らない人もいる。
少しだけ気が重くなる。
そんな悠を見て、リアが続けた。
「ドルフさんのところ」
「……ドルフ?」
「うん。村の鍛冶屋さん」
悠はその名前を覚えるように、小さく呟いた。
「……ドルフ」
「そう。ちょっと無口だけど、いい人だよ」
「……無口」
その言葉に、悠の動きが少し止まる。
「うん」
リアが笑う。
「悠とは話しやすいかもね」
「……そう?」
「たぶん」
「……たぶん」
二人で顔を見合わせる。
悠はもう一度、折れた農具を見た。
「……持っていく」
「うん」
こうして悠は、壊れた農具を抱えて村へ行くことになった。
村へ行く理由は、たった一つ。
農具を直してもらうため。
それだけだった。




