Scene3 パン屋
Scene3 パン屋
「せっかくだし、店の中も見ていく?」
ミーナがそう言って、店の奥を指差した。
悠は少し迷った。
村の店に入るのは、まだ少し緊張する。
けれど、パンの香りが気になった。
「……うん」
小さく返事をして、店の中へ入る。
店内には、焼きたてのパンが並んでいた。
丸いパン。
細長いパン。
木の籠に積まれた小さなパン。
どれも、まだ温かそうだった。
ふわりと漂ってくる香りに、悠は思わず足を止める。
「……いい匂い」
「でしょ?」
ミーナが嬉しそうに笑う。
「さっき焼いたばっかりなんだよ」
悠は並んだパンをじっと見る。
森で採れる果物や野菜。
自分で作った料理。
それらとは、また違う匂いだった。
「食べてみる?」
「……いいの?」
「もちろん」
ミーナは籠から小さなパンを一つ取った。
「はい」
悠は受け取る。
まだ少し温かい。
手のひらに伝わる熱を感じながら、一口食べる。
「……」
外は少し香ばしくて、中は柔らかい。
噛むたびに、小麦の味が広がる。
悠はもう一口食べた。
「……うまい」
ミーナが嬉しそうに笑った。
「でしょ?」
「……うん」
悠はパンを見つめる。
「これ……どうやって作ってるの?」
「パン?」
「……うん」
ミーナは少し驚いた顔をした。
「興味ある?」
「……少し」
「じゃあ、今度作り方も教えてあげようか」
「……いいの?」
「もちろん」
悠は少し考えてから、頷いた。
「……うん」
パン屋の店内に、焼きたての香りが漂う。
村に来るのは、まだ少し疲れる。
人も多い。
知らない人もいる。
それでも。
この店には、少しだけ興味が湧いた。
そして悠にとって、村に知っている人が一人増えた。
それが、パン屋のミーナとの最初の一歩だった。




