Scene4 帰る時間
込む光が、少しずつ赤くなっていた。
畑仕事を終えたリアは、帰る準備をしていた。
「今日はありがとう」
「……うん」
リアは籠を持ち、家の外へ出る。
悠も玄関まで見送った。
「じゃあ、またね」
「……うん」
リアは森へ向かって歩き始めた。
悠はその場に立ったまま、その背中を見ていた。
少し歩いたところで、リアが振り返る。
「悠!」
「……?」
「また明日来てもいい?」
悠は答えようとして、少しだけ止まった。
明日。
また来る。
また家に誰かがいる。
また話をする。
また一緒に食事をするかもしれない。
悠は少し考えた。
本音を言えば。
「……帰ってほしい」
そう思った。
一人のほうが楽だ。
誰かがいると、どうしても気を使う。
話すことを考えなければならない。
疲れる。
だから――。
断ってもいい。
「……」
なのに。
口から出たのは、別の言葉だった。
「……うん」
リアがぱっと笑う。
「じゃあ、また明日!」
「……うん」
リアは手を振りながら、森の中へ戻っていった。
やがて、その姿が木々の向こうへ消える。
悠はしばらく、その方向を見ていた。
静かになった。
いつもの森だ。
鳥の声。
木々の揺れる音。
夕方の風。
「……」
悠は家の中へ戻る。
テーブルには、今日使った食器が二人分。
さっきまでリアが座っていた椅子。
畑の外では、ノアが小さく鳴いている。
「きゅ?」
悠はノアを見る。
「……何でもない」
そう言って、食器を片付ける。
けれど。
ふと、玄関のほうを見る。
誰もいない。
それなのに、さっきまで誰かがいたような気がした。
悠は少しだけ首を傾げる。
そして、小さく呟いた。
「……なんで了承したんだろ」
自分でもよく分からなかった。
ただ。
明日も来るらしい。
そのことを考えると――。
なぜか、嫌な気はしなかった。
こうして。
一人で始めた悠の生活に、少しずつ人が増えていく。
それが、第二章の始まりだった。




