第十四話 村へ Scene1 村が怖い
リアと出会ってから、しばらく経ったある日。
悠は、リアと一緒に森を歩いていた。
今日はいつもの薬草採取ではない。
採った薬草を、リアの住んでいる村へ届けるためだった。
「これ、村に持っていけばいい?」
「うん。薬師さんに渡してくれると助かる」
「……分かった」
悠は薬草の入った袋を持って歩く。
ただ、それだけのつもりだった。
村に行く。
薬草を渡す。
帰る。
それなら大丈夫。
そう思っていた。
森を抜ける。
少し歩くと。
遠くに建物が見えてきた。
「あれが村だよ」
リアが指差す。
悠はそちらを見る。
「……」
家がある。
何軒も。
さらに近づいていくと、声が聞こえてきた。
人の声。
笑い声。
話し声。
荷車の音。
そして。
「待ってー!」
「こら、走るな!」
子供が道を走っていく。
その横を荷物を積んだ荷車が通る。
店の前では誰かが話をしている。
商人らしき人もいる。
人。
人。
人。
「……」
悠の足が少し遅くなった。
胸がざわつく。
森とは全然違う。
静かじゃない。
いろんな音がする。
知らない人がたくさんいる。
自分を見ている人もいる気がする。
悠は俯いた。
歩く速度が、さらに遅くなる。
「……悠?」
リアが振り返った。
「大丈夫?」
「……」
悠は答えなかった。
大丈夫ではない。
できれば。
今すぐ帰りたい。
森へ戻りたい。
家に帰って、本でも読んでいたい。
そう思った。
しばらくして、悠は小さく口を開いた。
「……帰りたい」
リアは一瞬だけ悠を見る。
それから、何でもないように頷いた。
「じゃあ帰ろうか」
「……え?」
「無理して来る必要ないよ」
リアは村のほうを見る。
「薬草は私が届けるから」
「……」
悠は少し驚いた。
てっきり。
せっかく来たんだから、と言われると思っていた。
もう少しだけ頑張ろう、と言われると思っていた。
でも。
リアは何も言わなかった。
「……いいの?」
「うん」
リアは笑う。
「また今度でもいいし」
「……」
悠は村を見る。
やっぱり、人が多い。
怖い。
でも。
隣にはリアがいる。
少しだけ迷う。
それでも今日は。
「……帰る」
「うん」
リアはそれだけ答えた。
二人は村へ入ることなく、来た道を戻っていく。
悠は少しだけほっとした。
やっぱり。
森のほうが落ち着く。
けれど。
帰り道で、悠は一度だけ村を振り返った。
遠くに見える家々。
人の声。
子供たちの笑い声。
まだ怖い。
でも。
いつかなら。
少しくらい、入ってみてもいいのかもしれない。
そんなことを、ほんの少しだけ思った。




