第十三話 「ありがとう」
ことが嘘のように、リアは普通に歩いている。
足の痛みもない。
悠は隣を歩きながら、ときどきリアの足元を確認していた。
「……大丈夫そう」
「うん。もう平気」
リアは笑った。
しばらく歩く。
森の中には、木々の揺れる音と鳥の声が響いている。
やがて、リアが口を開いた。
「ありがとう」
「……」
悠は黙った。
リアが首を傾げる。
「悠?」
「……うん」
「どうしたの?」
「……いや」
悠は歩きながら考えた。
ありがとう。
そう言われた。
……何て返せばいいんだろう。
今まで、こんなふうに誰かから感謝されたことなんて、ほとんどなかった。
助けたら。
何か返事をしないといけない。
でも。
何を言えばいいのか分からない。
「……」
少し考えて。
ようやく言葉が出てきた。
「……どういたしまして」
リアが少し目を丸くする。
そして。
「ふふ」
「……?」
悠はリアを見る。
「……何?」
「ううん」
リアは少し笑いながら首を振った。
「ちゃんとお礼言えたなって」
「……」
悠は黙った。
言われてみれば。
確かに。
ちゃんと返事をした。
ただそれだけのことなのに。
妙に恥ずかしい。
「……別に」
悠は前を向いた。
耳が少し熱い気がする。
リアはそんな悠を見て、また小さく笑った。
「うん」
それ以上は何も言わなかった。
森の中を、二人で歩いていく。
悠は少しだけ俯きながら。
さっき自分が言った言葉を、頭の中でもう一度思い返していた。
――どういたしまして。
たった一言。
それだけなのに。
なんとなく、少しだけ嬉しかった。




