第二話 家が欲しい Scene1 住む場所を探す
作った家から、少し離れた場所まで来ている。
「……結構広いな」
周囲を見渡す。
どこまで行っても木々が続いている。
鳥の声が聞こえる。
時々、茂みが揺れる。
昨日の能力確認で、魔物がいることも分かっている。
鑑定してみたところ、森の奥にはそれなりに危険な生物もいるらしい。
「……まあ、俺なら大丈夫そうだけど」
強さについては、あまり心配していない。
問題は別だった。
悠は空を見上げる。
雲が少し増えている。
「……雨、降るかな」
雨。
その言葉を考えた瞬間、今まで気にしていなかったことが気になり始めた。
もし雨が降ったら。
濡れる。
服も濡れる。
寝る場所もない。
「……野宿は嫌だな」
できればしたくない。
というより。
絶対にしたくない。
地面に寝るのも嫌だし、虫も嫌だ。
何より、雨の中で一晩過ごすなんて考えたくもない。
「……やっぱり、ちゃんとした家が必要だ」
悠は歩きながら、住めそうな場所を探してみる。
木が密集しすぎている場所は避ける。
地面がぬかるんでいる場所も避ける。
川の近くも、水害が怖い。
かといって、森の奥に入りすぎるのも危険そうだ。
「……難しいな」
理想を考え始めると、意外と条件が多い。
水が近い。
日当たりがいい。
平らな土地。
魔物が少ない。
森の恵みも利用できる。
そして何より――。
「……静かなところ」
そこは譲れない。
悠はさらに歩いた。
やがて、木々の間から少し開けた場所が見えてくる。
「……ここ」
足を止めた。
小さな平地だった。
周囲には木があるが、中央には十分な空間がある。
少し離れた場所から、水の流れる音も聞こえる。
空も見える。
人の気配はない。
「……いいな」
悠はその場を見渡した。
ここなら。
家を建てられる。
畑も作れる。
薪を置く場所も作れる。
森にもすぐ行ける。
「……うん」
悠は頷いた。
「ここにしよう」
問題は――。
どうやって家を建てるか。
昨日、創造魔法という能力があることは確認した。
だが、実際に大きなものを作ったことはない。
「……試してみるか」
悠は目の前の空き地を見る。
どんな家がいいだろう。
大きすぎる必要はない。
一人で暮らすだけだから、こぢんまりしていれば十分だ。
雨風を防げる。
眠れる。
料理ができる。
できれば風呂も欲しい。
窓も欲しい。
机と椅子も欲しい。
「……考えると結構欲しいな」
苦笑する。
そして。
ゆっくりと手を前へ伸ばした。
「創造」
――瞬間。
目の前の空間が淡く輝いた。
「……お」
地面が整えられていく。
木材が生まれる。
柱が立つ。
壁が組み上がる。
屋根が形になっていく。
まるで、目に見えない職人たちが一斉に作業しているようだった。
悠は黙って見つめていた。
床ができる。
窓が取り付けられる。
扉ができる。
最後に屋根が乗った。
そして。
そこには一軒の小さな木造の家が建っていた。
「…………」
悠はしばらく黙っていた。
想像していたより、ずっとちゃんとしている。
恐る恐る扉を開ける。
中には、簡素な部屋が一つ。
机。
椅子。
ベッド。
小さな台所。
最低限の家具まで揃っている。
「……すごいな」
昨日能力を確認したときとは違う。
今度は、自分がこれから暮らす場所なのだ。
壁に触れる。
しっかりしている。
床も問題ない。
窓を開ける。
森から風が入ってくる。
「……」
悠は窓辺に立ったまま、外を眺めた。
静かだった。
誰もいない。
誰かに気を遣う必要もない。
好きな時間に起きて。
好きなものを食べて。
好きな場所で眠る。
「……ここなら」
悠は小さく呟いた。
「ちゃんと暮らせそうだ」
そう思った瞬間。
ぐぅ。
「…………」
腹が鳴った。
「……」
悠は自分の腹を見た。
「……飯にしよう」
異世界での生活は、まだ始まったばかり。
けれど。
少なくとも今夜、雨を心配しながら森で眠る必要はなくなった。
悠は、自分で作った小さな家を見上げる。
「……家、できたな」
少しだけ嬉しかった。




