第十一話 村の話
雨が少し弱くなってきた。
窓の外を見ると、さっきまで白く煙っていた森が、少しずつ見えるようになっている。
リアは椅子に座ったまま、外を眺めていた。
しばらくして。
「そういえば」
リアが口を開いた。
「私、村から来たんだ」
「……村?」
悠が聞き返す。
「うん」
リアは頷いた。
「ここから歩いて少し行ったところに村があるんだ」
「……」
悠は少しだけ黙った。
村。
その言葉を聞いただけで、頭の中にいろいろなものが浮かぶ。
人。
たくさんの人。
知らない人。
話しかけられるかもしれない。
視線を向けられるかもしれない。
そう考えると、少しだけ肩に力が入った。
リアはそんな悠の変化に気づいたのか、少し間を置いてから言った。
「ルミナ村っていうの」
「……ルミナ村」
「うん」
悠はその名前を小さく繰り返す。
森の中で暮らしている自分とは、ずいぶん違う場所なのだろう。
人が住んでいる。
家があって。
店があって。
いろんな人がいる。
想像するだけで、少し疲れそうだった。
リアはそんな悠を見ながら、ふと思いついたように言った。
「今度来てみる?」
「……」
悠は黙った。
行ってみたいか。
行きたくないか。
そう聞かれれば。
たぶん、行きたくない。
少なくとも今は。
「……人、多い?」
悠が尋ねる。
「うん。まあ、それなりに」
「……」
やっぱり。
悠は少し考えた。
そして。
「……やめとく」
小さく答えた。
「そっか」
リアはそれだけだった。
残念そうな顔もしない。
もう一度誘うこともしない。
「村にはパン屋さんもあるし、薬屋さんもあるよ」
そう言って少し笑った。
「でも、無理に来なくても大丈夫だから」
「……うん」
悠は少しだけ安心した。
来いと言われない。
どうして来ないのかとも聞かれない。
それがありがたかった。
リアはまた窓の外を見る。
「村は村で、結構楽しいけどね」
「……そうなんだ」
「うん」
それだけ話すと、リアはそれ以上村のことを話さなかった。
悠も何も言わない。
外では、雨が静かに降っている。
さっきまでの激しい雨は、もうほとんど止んでいた。
悠は窓の外を眺めながら思う。
ルミナ村。
人がいる場所。
自分には、まだ少し遠い場所。
でも。
そこにリアが住んでいる。
それだけは、なんとなく覚えておこうと思った。




