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異世界で最強になったので、世界の片隅でひっそり暮らします  作者: 南蛇井


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第九話 小さな交流

翌日。


 悠はいつものように森へ来ていた。


 目的は薬草。


 家の近くにもいくつか生えているが、少し離れた場所まで行くと種類が増える。


 必要な分だけ採って帰る。


 それが、最近の悠の日課になっていた。


 しゃがみ込み、足元の薬草を確認する。


「……これでいいか」


 いくつか採取して、収納へ入れる。


 そのまま帰ろうとしたところで。


「……あ」


 声が聞こえた。


 昨日聞いた声だった。


 悠が顔を上げる。


 少し離れたところに、リアがいた。


 今日も籠を持っている。


 どうやら薬草を探しているらしい。


 リアは森の中を歩き回っていた。


 木の根元を確認して。


 草むらを覗いて。


 別の場所へ移動する。


「……ないなぁ」


 小さく呟く。


 探している薬草が見つからないらしい。


 悠は少し考えた。


 その薬草なら知っている。


 昨日、見つけた場所を覚えていた。


 リアはまだ気づいていない。


 悠はしばらく黙っていた。


 教える。


 ……教えない。


 どちらでもいい。


 けれど。


 昨日、何も聞かずに帰してくれたことを思い出した。


 悠は、リアのほうを見る。


 そして。


 無言で、森の奥を指差した。


 リアが振り返る。


「……あっち?」


「……うん」


 それだけ答える。


 悠は先に歩き出した。


 リアも少し遅れてついてくる。


「……」


「……」


 会話はない。


 ただ森の中を歩く。


 やがて、悠が足を止めた。


 少し開けた場所。


 その端に、目的の薬草が生えている。


 リアが目を見開いた。


「あった!」


 嬉しそうな声が森に響く。


 リアは駆け寄ると、しゃがみ込んだ。


「これだ……」


 葉を一枚ずつ確認する。


 間違いない。


 探していた薬草だった。


 リアは丁寧に採取して、籠へ入れる。


 そして悠を見る。


「教えてくれてありがとう」


「……別に」


 悠は視線を少し逸らした。


 大したことをしたつもりはない。


 知っている場所を教えただけだ。


 それだけ。


 リアはそんな悠を見て、少し笑った。


「また会ったらよろしくね」


「……うん」


 短い返事。


 リアは籠を背負い直した。


「じゃあ、帰るね」


「……うん」


 リアは森を抜ける方向へ歩いていく。


 悠はその背中を少しだけ見送った。


 やがて、その姿が木々の向こうへ消える。


「……」


 静かになった。


 悠も家へ戻ることにした。


 ---


 夜。


 家の中には、食器の音だけが響いていた。


 悠はいつものように、一人で夕飯を食べている。


「……いただきます」


 料理を口に運ぶ。


「……うまい」


 今日も悪くない。


 ノアは少し離れたところで寝ている。


 窓の外からは、夜の森の音が聞こえてくる。


 いつもと変わらない夜。


 いつもと変わらない食事。


 ……のはずだった。


 ふと、今日のことを思い出した。


 森で会ったリア。


 薬草を教えたこと。


 そして。


『また会ったらよろしくね』


 その言葉。


 悠は箸を止めた。


「……また会うのか」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


 ノアは寝たままだ。


 返事もない。


 悠はしばらく黙っていた。


 そして、また夕飯を食べ始める。


「……まあ」


 小さく呟く。


「……いいか」


 ほんの少しだけ。


 いつもの夜とは違うことを思いながら。


 悠は一人で夕飯を食べ続けた。

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