Scene2 リア視点
た籠の位置を直しながら、足元に生えている草を確認する。
「……あった」
しゃがみ込み、細い葉をつまむ。
葉の形と色を確かめてから、根元を傷つけないように丁寧に摘み取った。
籠の中には、すでに何種類もの薬草が入っている。
どれも村ではよく使われるものだ。
傷薬に使うもの。
お腹の調子を整えるもの。
熱が出たときに使うもの。
リアは村の薬草師のところで見習いをしている。
薬草の採取は、見習いの仕事の一つだった。
だから、森には何度も来ている。
どの場所にどんな薬草が生えるのか。
どの時期に採るのがいいのか。
どこまでなら安全に歩けるのか。
少しずつ覚えてきた。
「こっちはもう少しで採れなくなるかな」
周囲を見渡す。
見慣れた木々。
聞き慣れた鳥の声。
森を抜ける風の音。
いつもの森だった。
……ただ。
今日は、いつもより少しだけ奥に来ている。
「……ちょっと来すぎたかな」
リアは立ち上がった。
薬草を探しているうちに、思ったよりも歩いてしまったらしい。
ここまで来ると、村の近くとは少し雰囲気が違う。
木々が多くなり、道らしい道もなくなってくる。
それでも、リアは慌てなかった。
何度も森に来ているおかげで、自分がどこにいるのかは大体分かる。
「帰ることはできるし……」
そう呟いて、もう一度周囲を見る。
せっかくここまで来たのだ。
もう少しだけ探してみよう。
奥のほうには、村の近くではあまり見かけない薬草が生えていることがある。
見つけられれば、薬師にも喜ばれる。
「もう少しだけ」
リアは再び歩き始めた。
草をかき分け、木の根を避ける。
しばらく進んだところで、見覚えのない薬草が目に入った。
「……これ」
リアはしゃがみ込む。
葉の裏側まで確認する。
間違いない。
「薬師さんが言ってたやつだ」
思わず声が弾む。
村ではなかなか手に入らない薬草だった。
リアは慎重に摘み取り、籠へ入れる。
「これなら……今日は来た甲斐があったかも」
小さく笑った。
薬草師見習いになってから、こういう瞬間が少し好きになった。
教えてもらったことが、少しずつ自分でも分かるようになっていく。
まだ一人前には遠い。
それでも、昨日より今日のほうが少しだけ知っている。
それが嬉しかった。
リアは籠の中を確認する。
「……そろそろ帰ろうかな」
薬草は十分集まった。
これ以上奥へ行く必要もない。
そう思って踵を返した、そのときだった。
ふと、森の中に視線を向ける。
「……?」
何かが聞こえた気がした。
風だろうか。
それとも鳥か。
リアは少しだけ立ち止まった。
けれど、周囲には何もない。
「……気のせいかな」
首を傾げる。
そして、何事もなかったように歩き出した。
今日の仕事は終わり。
村へ帰って、採ってきた薬草を薬師に見せなければならない。
リアは籠を背負い直す。
そのまま森の中を歩いていく。
自分が来た道を戻るように。
まだ、彼女は知らなかった。
この森に、自分以外にも誰かが暮らしていることを。
そして、その誰かが。
少し離れた木の陰から、自分のことをじっと見ていたことを。




