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異世界で最強になったので、世界の片隅でひっそり暮らします  作者: 南蛇井


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第八話 森の少女 Scene1 森で人影

ある日の午後。


悠は森の中を歩いていた。


目的は薬草の採取。


畑の世話を終えたあと、家に戻る前に少しだけ森を歩く。


最近では、森を歩くことにも慣れてきた。


どこに薬草が生えているのか。


どこに食べられる果物があるのか。


少しずつ分かるようになってきている。


「……この辺だったな」


悠は足元を探す。


すると――。


「あった」


薬草を見つける。


しゃがみ込んで採取しようとした、そのときだった。


「……ん?」


悠の手が止まった。


何か聞こえる。


風の音ではない。


鳥でもない。


木々の揺れる音でもない。


「……人?」


遠くから、微かな足音が聞こえてきた。


ザッ。


落ち葉を踏む音。


一度だけではない。


こちらへ近づいてきている。


「……」


悠は立ち上がった。


森の中に、人がいる。


それだけのことなのに、身体が少し緊張する。


異世界に来てから、誰かと会うことなんてなかった。


村も見ていない。


街も見ていない。


ずっと一人だった。


「……どうしよう」


悠は周囲を見回す。


そして――。


木の陰に隠れた。


「……」


幹の横から、そっと様子を見る。


足音が近づいてくる。


やがて。


木々の向こうから、一人の少女が姿を現した。


年齢は、悠とそれほど変わらないように見える。


長い髪。


動きやすそうな服。


そして、腕には大きな籠を抱えている。


少女は周囲を見回すと、しゃがみ込んだ。


「……あった」


小さく呟く。


足元に生えていた薬草を見つけたらしい。


少女は慣れた手つきで薬草を摘み、籠の中へ入れていく。


「……」


悠は木の陰から、その様子を見ていた。


どうやら、薬草を採りに来ているらしい。


少女はまた少し移動する。


そして、別の薬草を見つける。


「これも……」


摘み取る。


籠の中には、すでにいくつもの薬草が入っていた。


「……」


悠はじっと見ていた。


この森には、自分以外にも人が来るらしい。


少し意外だった。


ずっと誰もいないと思っていた。


少女は薬草を探しながら、さらに森の奥へ進んでいく。


その横顔は穏やかだった。


森にも慣れているように見える。


「……」


悠はどうするべきか迷った。


声をかける。


その選択肢が頭に浮かぶ。


けれど。


「……無理だな」


小さく呟いた。


知らない人。


しかも同年代くらいの少女。


いきなり話しかけるなんて、悠には難易度が高すぎる。


だから。


今はただ、見ているだけ。


少女が薬草を採る。


鳥が鳴く。


風が木々を揺らす。


そんな穏やかな森の時間が流れていく。


少女は籠いっぱいに薬草を集めると、立ち上がった。


そして、森の出口へ向かって歩き始める。


「……」


悠は木の陰から見送る。


少女の姿が木々の向こうへ消えていく。


最後まで、悠は声をかけなかった。


ただ。


一つだけ分かったことがある。


この森には――。


自分以外にも、人がいる。


そして、その少女の名前は――。


リア。


悠が初めて出会う、この世界の人間だった。

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