Scene3 畑
朝食を終えると、悠はいつものように畑へ出た。
家の隣に作った小さな畑。
まだ芽が出たばかりの野菜が、朝日に照らされて揺れている。
「……順調」
しゃがみ込んで土を触る。
湿り気もちょうどいい。
雑草を一本抜いて、水路の様子も確認する。
「よし」
今日も問題なし。
立ち上がった、そのときだった。
「きゅー!」
元気な声が聞こえた。
「……ノア?」
振り向くと、小さなドラゴンが勢いよく家から飛び出してきた。
羽をぱたぱたさせながら、一直線に悠のほうへ走ってくる。
「おい――」
止める間もなく。
とてとてとて、と畑の中へ入った。
「そこ畑」
悠が静かに言う。
ノアは足を止めた。
「きゅ?」
首を傾げる。
何がいけないのか分かっていない顔だった。
「……そこ、入っちゃだめ」
悠が指差す。
ノアは悠を見て、畑を見て、また悠を見る。
「きゅ」
一歩。
前へ進む。
ぷち。
小さな芽が一本、踏まれた。
「……」
悠は固まった。
ノアも足元を見る。
踏んだ芽を見る。
「……きゅ」
今度は耳がしゅんと下がった。
分かりやすくしょんぼりしている。
「……」
怒ろうか、と少しだけ考えた。
でも。
ノアは生まれて数日だ。
畑なんて知らない。
芽が大事なことも知らない。
「……しょうがないか」
悠はしゃがみ込み、折れた芽をそっと起こした。
土を寄せて、水を少しかける。
完全に戻るかは分からない。
それでもできることはしてみる。
ノアはその様子をじっと見ていた。
「きゅ……」
今にも泣きそうな声だった。
悠はノアの頭を軽く撫でる。
「……次から気をつけて」
怒る代わりに、それだけ言った。
ノアは何度も頷くように頭を上下させる。
「きゅ!」
「分かったならいい」
悠は畑の外を指差した。
「遊ぶなら、こっち」
ノアは畑の縁まで歩くと、ぴょん、と外へ飛び出した。
そして今度は草むらの上を走り回り始める。
「きゅー!」
さっきまでの落ち込みはどこへ行ったのか、元気いっぱいだった。
「……切り替え早いな」
悠は苦笑した。
折れた芽をもう一度見て、それからノアを見る。
一人で暮らすつもりだった。
静かに。
誰にも邪魔されず。
その予定だったのに。
朝食は二人分になって。
ベッドも一つ増えて。
今日は畑まで荒らされた。
「……手がかかるな」
そう呟く。
でも、不思議と嫌ではなかった。
ノアは相変わらず草むらを転げ回っている。
悠はその姿を見ながら、小さく息をついた。
「……まあ」
結局、思うことは一つだった。
「ペットが一匹増えただけか」
そう言って、悠は畑仕事を再開した。
そのすぐ隣で、ノアは楽しそうに「きゅー!」と鳴いていた。




