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異世界で最強になったので、世界の片隅でひっそり暮らします  作者: 南蛇井


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Scene3 孵化

黒い卵を持ち帰った悠は、家の中にそれを置いた。


どこに置けばいいのか分からなかったので、とりあえず棚の上。


「……」


黒い卵は、何事もなかったかのようにそこにある。


悠はしばらく眺めていた。


「……本当に生きてるのかな」


鑑定結果では、生命活動あり。


けれど、動く様子はない。


「……まあ、いいか」


そう呟いて、その日は眠った。


次の日も。


その次の日も。


卵は変わらなかった。


悠は畑の世話をした。


森へ行って薬草を採った。


料理を作った。


風呂にも入った。


そして時々――。


「……」


卵を見る。


何も起きない。


「……まだか」


そんな日々が数日続いた。


そして。


ある朝。


悠が朝食を作っていると――。


「……ん?」


小さな音が聞こえた。


――コツ。


悠が振り返る。


棚の上。


黒い卵が、ほんの少しだけ揺れている。


「……?」


もう一度。


――コツ。


今度は、はっきり聞こえた。


悠は卵に近づく。


「……何だ?」


よく見る。


すると――。


卵の表面に、小さな線が入っていた。


「……ヒビ?」


その線が、少しずつ広がっていく。


ピシッ。


「……」


悠は黙って見つめる。


ピシッ。


ピシッ。


ヒビが増えていく。


そして――。


パキッ。


殻の一部が割れた。


「……!」


中から、小さな何かが顔を出す。


黒い鱗。


小さな角。


そして、丸い目。


「……」


悠は固まった。


卵から出てきたのは――。


小さな魔獣だった。


いや。


その姿には、見覚えがある。


小さな翼。


長い尻尾。


鋭そうな爪。


そして、頭に生えた二本の角。


「……ドラゴン?」


小さなドラゴンは、殻を押し退けながら外へ出てくる。


まだ生まれたばかりなのか、身体はとても小さい。


それでも。


間違いなくドラゴンだった。


悠はしばらく、その姿を眺めていた。


「……ドラゴン、か」


まさか卵からドラゴンが出てくるとは思わなかった。


小さなドラゴンは、身体についた殻の欠片を振り落とす。


そして――。


悠のほうを見た。


こうして。


悠の家に、新しい住人が誕生した。


Scene4 ノア


小さなドラゴンは、悠をじっと見ていた。


黒い鱗。


小さな翼。


短い角。


そして、つぶらな目。


「……」


悠も、黙って見返す。


ドラゴンも動かない。


しばらくの間。


家の中は、妙に静かだった。


やがて。


「きゅ?」


小さなドラゴンが首を傾げた。


「……」


悠は何も言わない。


どう返せばいいのか分からなかった。


すると。


「きゅー」


今度は少し長く鳴いた。


「……」


やっぱり分からない。


「……どうしたらいいんだ」


悠が呟く。


もちろん、ドラゴンから返事はない。


ただ。


小さなドラゴンは、てくてくと悠のほうへ歩いてきた。


そして――。


悠の足元まで来る。


「……?」


小さな身体が、悠の足にぴったり寄り添った。


「……」


悠は足元を見る。


ドラゴンは満足そうにしている。


離れる気はないらしい。


「……」


どうやら懐かれてしまったようだ。


悠は少し困った顔をする。


正体不明の黒い卵を拾ったと思ったら。


数日後にはドラゴンが生まれた。


しかも、そのドラゴンが自分についてきている。


「……まあ、いいか」


悠はしゃがみ込み、小さなドラゴンを見る。


ドラゴンは嬉しそうに、


「きゅー」


と鳴いた。


「……名前、どうするかな」


まだ名前は決まっていない。


けれど――。


それを考える時間も、悪くなさそうだった。


悠は小さなドラゴンを見ながら、ゆっくり立ち上がる。


一人で暮らすはずだった。


静かに。


誰にも邪魔されず。


自分の好きなように。


その予定だった。


けれど。


「……」


足元を見る。


そこには、小さなドラゴンがいる。


「……まあ」


悠はもう一度呟いた。


「……いいか」


こうして。


悠の一人暮らしに――。


一匹、追加された。

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