第六話 黒い卵 Scene1 森へ採取
朝。
悠は家の隣にある畑へ出ていた。
昨日植えたばかりだった種から、小さな芽がいくつか顔を出している。
「……お」
しゃがみ込んで、芽の様子を見る。
土の状態を確認する。
水も足りている。
「……順調」
悠は満足そうに頷いた。
小さな芽を傷つけないように、周囲の雑草を取り除いていく。
水路も確認する。
問題ない。
「……よし」
畑の世話を終える。
家の中へ戻り、簡単な道具を準備する。
今日は森へ行くことにした。
食べ物はまだある。
けれど、森には食材以外にも使えるものがたくさんある。
特に――。
「薬草、探してみるか」
以前、森で見つけた植物の中に、薬草らしきものがいくつかあった。
怪我をしたときにも使える。
薬を作る材料にもなる。
「……ある程度、集めておこう」
悠は家を出た。
森の中へ入っていく。
朝の森は静かだった。
木々の間から差し込む光。
葉の揺れる音。
遠くから聞こえる鳥の声。
悠は周囲を見ながら、ゆっくり歩いていく。
「……あった」
足元に、小さな緑色の草が生えている。
鑑定する。
【薬草】
【用途:傷薬などの材料】
「……これだな」
必要な分だけ採取する。
収納へ入れる。
さらに奥へ進む。
「……こっちにもある」
別の薬草。
それも採る。
少し歩いては採取。
また歩いては採取。
特に急ぐ必要はない。
「……こういうのも悪くないな」
森の中を歩きながら、悠はそんなことを思った。
すると――。
ふと、足を止めた。
「……ん?」
何かが見えた。
木々の間。
少し開けた場所に、何かが落ちている。
黒い。
丸い。
大きさは、悠の両手で抱えられるくらい。
「……?」
悠はゆっくり近づいていく。
それは、卵だった。
ただし――。
普通の卵ではない。
殻は真っ黒。
光をほとんど反射せず、まるで夜そのものを固めたような色をしている。
「……黒い卵?」
しゃがみ込む。
手を伸ばす前に、鑑定を使う。
「鑑定」
――。
しかし。
【鑑定不能】
「……え?」
もう一度。
「鑑定」
結果は変わらない。
【鑑定不能】
悠は卵をじっと見つめる。
「……鑑定できない」
今まで、鑑定できなかったものはなかった。
植物も。
果物も。
魚も。
薬草も。
全部、名前や性質が表示された。
なのに。
この卵だけは――何も分からない。
悠は少しだけ警戒しながら、卵に手を近づける。
「……何なんだ、これ」
黒い卵は、森の中で静かに佇んでいた。
まるで誰かに置かれたように。
悠はしばらく卵を眺める。
そして――。
「……」
結局、そっと持ち上げた。
意外と軽い。
「……持って帰るか」
理由は分からない。
何が生まれるのかも分からない。
それでも。
なぜか、放っておく気にはなれなかった。
悠は黒い卵を抱えたまま、来た道を戻り始める。
薬草の採取は、もうどうでもよくなっていた。
今日、森で見つけた一番気になるもの。
それは――。
黒い卵だった。




