Scene3 一人で食べる
机の上には、出来上がった料理が並んでいる。
湯気が立っている。
窓から入ってくる風が、その湯気をゆっくり揺らしていた。
悠は椅子に座る。
目の前にあるのは、一人分の料理。
向かいの椅子には誰もいない。
もちろん、隣にも誰もいない。
「……」
悠は料理を眺めた。
異世界に来てから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも。
家ができた。
畑もできた。
井戸もある。
風呂もある。
そして今、自分で作った料理が目の前にある。
悠は箸を手に取る。
「いただきます」
一人でそう呟く。
料理を口に運ぶ。
「……」
もぐ。
しっかり味わう。
昨日食べた果物とは違う。
自分で選んだ食材を。
自分で調理して。
自分で味付けした。
「……うまい」
思わず声が漏れる。
窓の外では、鳥が鳴いている。
チュン、チュン。
木々が風に揺れる。
ざあ……。
遠くでは川の流れる音も聞こえる。
それ以外には、何もない。
誰かが話しかけてくることもない。
誰かに気を遣う必要もない。
静かな時間だけが、ゆっくりと流れている。
悠はもう一口食べる。
「……」
美味しい。
さっきまで料理の味を何度も調整していたことを思い出す。
最初は、まずかった。
塩を足して。
砂糖を足して。
油を加えて。
何度も味見をして。
ようやく、この味になった。
「……自分で作ったからかな」
少しだけ、嬉しい。
悠は窓の外を見る。
森は穏やかだった。
木漏れ日が地面を照らしている。
鳥が枝から枝へ飛んでいく。
風が頬を撫でる。
誰もいない。
それなのに――。
不思議と、寂しくなかった。
むしろ。
「……こういう生活も悪くない」
ぽつりと呟く。
静かな家。
自分で作った料理。
窓の外には、どこまでも広がる森。
誰かに急かされることもない。
誰かと比べる必要もない。
ただ、自分の好きなように一日を過ごせる。
悠は料理を食べながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……いいな」
その言葉は、自然に出てきた。
特別なことは何もない。
大きな出来事もない。
ただ、ご飯を食べているだけ。
それでも――。
この時間が、嫌いじゃなかった。
悠は最後の一口を食べる。
「ごちそうさま」
空になった皿を見て、少しだけ満足そうに頷く。
窓の外で、また鳥が鳴いた。
今日も森は静かだった。
そして悠は――。
この静かな暮らしを、少しずつ好きになり始めていた。




