第59話 バーベキュー Scene1 夕方
夕方。
少しずつ日が傾き始めていた。
昼間よりも暑さが和らぎ、川辺を吹く風が気持ちいい。
「そろそろ焼くか」
ハンスがそう言って、川辺に用意していた薪に火をつける。
ぱちぱちと音を立てて、炎が上がった。
その上に網を置く。
そして。
肉を並べていく。
じゅう。
肉から脂が落ちる。
香ばしい匂いが、川辺に広がった。
「いい匂い!」
子供たちが集まってくる。
「まだだぞ。焼けるまで待て」
ハンスが笑いながら言う。
悠は少し離れたところから、その様子を見ていた。
昼からずっと川辺にいる。
水に入ったり。
子供たちと少し遊んだり。
果物を食べたり。
それだけなのに。
時間が経つのは早かった。
「悠」
ハンスが声をかける。
「……?」
「これ、食べてみろ」
焼き上がった肉を差し出された。
悠は少し驚いて。
「……ありがとう」
受け取る。
焼きたての肉から、まだ湯気が上がっている。
一口。
「……」
柔らかい。
香ばしい。
昼に食べたものとは、また違う美味しさだった。
「……おいしい」
悠がそう言うと。
「だろ?」
ハンスが笑う。
周りの村人たちも笑った。
「悠、ちゃんと食べてるか?」
「肉はまだあるぞ」
「……うん」
悠は少しだけ頷いた。
その横で。
「きゅ……」
ノアがじっと肉を見ていた。
目が肉から離れない。
悠は気づく。
「……」
ノアを見る。
ノアは肉を見る。
悠を見る。
また肉を見る。
「……お前はさっき食べただろ」
「きゅ」
即答だった。
まるで。
「それはそれ」
と言っているようだった。
「……」
悠はため息をつく。
けれど。
その様子がおかしくて。
少しだけ笑った。
「きゅ!」
ノアはまだ肉を見ている。
「……一つだけな」
悠がそう言うと。
「きゅー!」
ノアが嬉しそうに鳴いた。
川の音。
薪が爆ぜる音。
肉の焼ける匂い。
村人たちの笑い声。
夕暮れの川辺は。
昼とはまた違う、穏やかな時間になっていた。




