第50話 魔女と村
ある日。
悠は久しぶりに村へ来ていた。
リアから頼まれていた薬草を届けるためだった。
村の中を歩いていると、広場の近くで村人たちが話をしているのが聞こえてきた。
「そういえば、この前また森の魔女に薬を作ってもらったんだよ」
「フィオナさんか?」
「ああ」
悠の足が、少しだけ止まった。
――フィオナ。
その名前が村で出てくるとは思っていなかった。
悠はそのまま、少し離れたところで話を聞いていた。
「森の魔女って聞くと、怖そうだけどな」
「怖い人じゃないよ」
「そうそう。昔から森で暮らしてるだけだ」
「薬草に詳しくてな。薬も作ってくれる」
「この前も子供が熱を出したとき、薬を分けてくれたぞ」
悠は少し意外だった。
フィオナは森の奥で一人暮らしをしている。
村からもかなり離れている。
だから。
悠は勝手に、村とはほとんど関係がない人なのだと思っていた。
けれど。
「まあ、人付き合いは苦手だな」
「それはそうだな」
「村に来ても、必要なものだけ買ってすぐ帰るし」
「話しかけても、あまり喋らないしな」
村人たちが笑う。
「でも、頼めばちゃんと薬を作ってくれる」
「ああ。いい人だよ」
「ただ、長話は嫌いみたいだけどな」
「フィオナらしいな」
悠は黙って聞いていた。
知らなかった。
フィオナは、村の人たちに知られている。
薬を作ったり。
必要なものを買いに来たり。
村の人たちを助けることもある。
ただ。
人付き合いが苦手だから、森で暮らしている。
それだけだった。
――森にいるから、村とは無関係。
そういうわけではないらしい。
「……」
悠は少しだけ考えた。
そのとき。
「悠?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、リアが立っていた。
「……リア」
「こんなところにいたんだ」
「……うん」
リアが悠の視線の先を見る。
「フィオナさんの話?」
「……知ってる?」
「もちろん」
リアは少し笑った。
「薬草を扱ってる人だしね。私も何度か会ったことあるよ」
「……そうなんだ」
「森の奥で暮らしてるから、あまり村には来ないけど」
リアは少し考えてから続ける。
「でも、薬を作ってくれるから、村の人たちも結構頼りにしてるよ」
悠は黙って聞いていた。
そして。
ふと、フィオナの家を思い出した。
必要最低限の家具。
薬草。
本。
一人で食べる食事。
静かな森。
何も話さなくてもいい時間。
そして。
人と長くいると疲れること。
「……似てる」
「誰に?」
リアが首を傾げる。
悠は少しだけ考えてから答えた。
「……フィオナ」
リアは一瞬、目を丸くした。
それから。
「ふふっ」
小さく笑った。
「そうかもね」
「……」
悠は少しだけ視線を逸らす。
自分では、それほどおかしなことを言ったつもりはなかった。
けれど。
リアには少し面白かったらしい。
「悠とフィオナさん、確かに似てるかもしれないね」
「……そう?」
「うん」
リアは笑いながら頷いた。
悠は村の向こうに広がる森を見る。
その奥には、フィオナの小さな家がある。
村と離れている。
けれど。
村と無関係ではない。
悠も。
森で一人で暮らしている。
けれど。
いつの間にか、村に知っている人が増えていた。
「……」
少しだけ。
自分とフィオナの違いが分かった気がした。
そして同時に。
やっぱり、似ているとも思った。




