第49話 少しだけ話す
その日も、悠はフィオナの家に来ていた。
いつものように。
「……こんにちは」
「……うん」
それだけの挨拶をして、悠は椅子に座る。
フィオナがお茶を淹れる。
二人で飲む。
フィオナは本を開き、悠は窓の外を眺める。
ノアは床で眠っている。
いつもと同じ時間だった。
しばらくして。
フィオナが本から顔を上げた。
「……村には行くの?」
悠は少し考えた。
「……たまに」
「……そう」
フィオナはカップに口をつける。
そして、少しだけ窓の外を見る。
「人、多いよね」
「……多い」
「……疲れる?」
悠は一瞬、フィオナを見る。
それから。
「……疲れる」
フィオナは小さく頷いた。
「……分かる」
「……」
悠の手が止まった。
フィオナは何でもないことのように、もう一口お茶を飲んでいる。
けれど。
悠は、しばらくその横顔を見ていた。
「……」
今まで。
人といると疲れる。
そう言っても。
「慣れればいい」
「せっかくなんだから楽しめばいい」
そんなふうに言われることが多かった。
自分でも。
どうして疲れるのか、うまく説明できなかった。
嫌いなわけではない。
怒っているわけでもない。
ただ。
人が多い場所にいると、疲れる。
それだけだった。
だから。
「分かる」
その一言が、妙に残った。
悠は少し考える。
そして、静かに言った。
「……そうなんだ」
フィオナが頷く。
「……うん」
それだけ。
また会話が終わった。
フィオナは本を開く。
悠はお茶を飲む。
森の中から、鳥の声が聞こえる。
いつもの静かな時間に戻っていく。
けれど。
悠はさっきより少しだけ、フィオナを近くに感じていた。
たった一言。
「分かる」
それだけだった。
それでも。
自分の感じていることを、そのまま理解してくれる人がいる。
そのことが、悠には少しだけ嬉しかった。
もちろん。
それを口にすることはなかった。
ただ。
「……」
悠はいつもより少し長く、フィオナの隣に座っていた。




