第45話 会話が続かない
数日後。
悠は再び森の奥へ来ていた。
理由は、特にない。
薬草を探していたわけでもない。
珍しいものを見つけたかったわけでもない。
ただ――。
「……」
目の前に、あの小さな家がある。
悠は家を眺めた。
先日のことを思い出す。
魔女。
フィオナ。
ほとんど会話をしない人。
そして。
自分と同じくらい、会話が苦手そうな人。
「……」
帰ろうかとも思った。
けれど、せっかくここまで来た。
悠は小さく息を吐き、家の前まで歩いていった。
すると。
「……悠?」
家の扉が開いた。
フィオナが顔を出す。
「……うん」
「……来たの?」
「……うん」
「……そう」
「……」
「……」
それだけだった。
フィオナは悠を追い返すこともなく、扉を開けたまま立っている。
悠も帰らない。
しばらくして、フィオナが家の外へ出てきた。
二人は家の前に並んで立った。
森は静かだった。
風が木々を揺らしている。
鳥の声が遠くから聞こえる。
なのに。
二人の間だけ、妙に静かだった。
悠は思う。
――何か話したほうがいいよな。
せっかく来たのだ。
何も話さずに帰るのも変な気がする。
しかし。
話題がない。
天気。
……さっきから晴れている。
薬草。
……何を聞けばいいのか分からない。
家。
……見れば分かる。
悩んだ末。
悠は、なんとか言葉を絞り出した。
「……最近どう?」
フィオナが少し考える。
「……普通」
「……そう」
「……」
「……」
会話が終わった。
あまりにも早かった。
悠は少しだけ視線を逸らした。
――気まずい。
たぶん。
フィオナも同じことを思っている。
ちらりと見ると、フィオナも少し困ったような顔をしていた。
「……」
「……」
それでも。
どちらも帰らなかった。
悠は近くの切り株に腰を下ろした。
フィオナも少し離れた場所に腰を下ろす。
会話はない。
けれど。
不思議と、そのまま時間だけが過ぎていった。
そのときだった。
「きゅっ」
悠の足元から、ノアが顔を出した。
「……お前、いたのか」
「きゅ」
ノアは悠の足元を離れ、フィオナのほうへ近づいていく。
フィオナが目を向ける。
黒い小さな身体。
翼。
尻尾。
そして、まだ幼さの残る顔。
フィオナは少しだけ身を乗り出した。
「……ドラゴン?」
「……たぶん」
フィオナが悠を見る。
「たぶん?」
「……卵から出てきた」
「……そう」
「……」
「……」
会話が終わった。
悠はノアを見る。
フィオナもノアを見る。
ノアは何も気にせず、地面を歩き回っている。
「きゅ?」
その鳴き声だけが、静かな森に響いた。
悠は思った。
――やっぱり、会話は難しい。
フィオナも思っていた。
――この人、私と同じくらい話さない。
それでも。
二人とも、まだ帰らなかった。




