第44話 森の魔女
# 第44話 森の魔女
「……」
「……」
森の中。
小さな家の前で、悠と見知らぬ女性は向かい合ったまま立っていた。
女性は長い髪をしていて、簡素な服を着ている。
その周囲には、乾燥させた薬草や、見たことのない植物がいくつも吊るされていた。
家の横には大きな釜まで置かれている。
どう見ても普通の暮らしではない。
悠は、ふと昨日までの村で聞いた話を思い出した。
森の奥には、魔法を使って暮らしている人がいる。
薬草を扱い、薬を作り、時には不思議な魔法まで使う。
つまり――。
「……魔女?」
悠が小さく呟く。
女性が少しだけ目を細めた。
「……そう」
あっさりと肯定された。
やっぱり魔女だった。
けれど。
怖い、という感じはしなかった。
むしろ。
悠は困っていた。
目の前にいる人が魔女だからではない。
単純に――。
何を話せばいいのか分からない。
「……」
「……」
また沈黙が落ちる。
森の木々が風に揺れる。
薬草が、かすかに擦れ合う。
それ以外には何も聞こえない。
女性も、悠をじっと見ている。
悠も、どうしていいのか分からず見返している。
やがて女性が、ぽつりと言った。
「……誰?」
「……悠」
「……そう」
「……」
「……」
会話が終わった。
あまりにも早かった。
悠は心の中で思う。
――どうしよう。
名前を聞かれた。
答えた。
それで終わってしまった。
普通なら、ここから何か話すのだろう。
どこから来たのか。
何をしているのか。
この家は何なのか。
いろいろ聞くことはある。
けれど。
悠には、その一歩が難しかった。
そして。
目の前の女性も、同じようだった。
フィオナはフィオナで、困っていた。
目の前の少年が何をしに来たのか分からない。
けれど、問い詰めるほどでもない。
帰ってほしいわけでもない。
ただ。
どう話しかければいいのか分からなかった。
「……」
「……」
二人は、しばらくその場に立っていた。
悠は帰ったほうがいい気もしてきた。
けれど。
なんとなく、帰るタイミングも分からない。
そんな悠を見て、フィオナが口を開く。
「……帰らないの?」
「……」
悠は少し考えた。
そして。
「……帰ってもいい?」
「……別に」
「……じゃあ」
悠は一歩、後ろへ下がった。
帰ろうと思った。
ここまで来たのだから、家に帰ればいい。
ノアも待っているだろう。
畑も気になる。
今日はまだやることもある。
だから――。
「……」
悠は、その場から動かなかった。
フィオナも何も言わない。
「……」
「……」
帰ると言ったのに。
二人とも、そのまま立っている。
悠は森を見る。
フィオナは家を見る。
それから、互いを見る。
「……」
「……」
やっぱり、何を話せばいいのか分からない。
それでも。
なぜか、どちらも先に立ち去ろうとはしなかった。




