Scene3 家具
風呂から上がった悠は、身体を拭いて家の中へ戻った。
「……」
部屋を見回す。
昨日作ったばかりの小さな木造の家。
壁がある。
床がある。
窓がある。
ベッドもある。
けれど――。
「……何もないな」
ベッド以外、ほとんど何も置かれていない。
床に座って食事をするのも悪くはない。
でも。
「……机、欲しい」
そう思った。
創造魔法を使う。
木材を加工して、簡素な机を作る。
「……できた」
続けて椅子を一脚。
机の前に置く。
「……うん」
座ってみる。
ちょうどいい高さだった。
「……悪くない」
次は棚。
壁際に木製の棚を作る。
そこへ、食器を並べていく。
皿。
コップ。
スプーン。
フォーク。
必要そうなものを一通り揃える。
「……これで食事もしやすい」
さらに収納棚も作る。
食材や道具を置いておける場所だ。
「収納があるのに収納を作るのも変な感じだけど……」
魔法の収納は便利だ。
けれど、普段使うものまで全部そこに入れてしまうと、少し味気ない。
目に見える場所に物がある。
それだけで、部屋らしく感じる。
最後に照明を作る。
小さな光の魔道具。
壁に取り付ける。
「……これでいいか」
魔力を流す。
ふわっ。
柔らかな光が部屋を照らした。
明るすぎない。
暗すぎない。
ちょうどいい。
悠は部屋の中央に立って、もう一度見回した。
昨日までとは、明らかに違う。
机がある。
椅子がある。
棚がある。
食器がある。
収納がある。
明かりもある。
ベッドもある。
「……」
悠はしばらく黙っていた。
最初は、ただ雨を避けるために作った小屋だった。
屋根があればいい。
壁があればいい。
眠れればいい。
そんな程度だった。
けれど。
少しずつ必要なものを増やしていった。
ベッドを置いて。
畑を作って。
井戸を作って。
風呂を作って。
そして今、家具まで揃った。
「……家っぽくなったな」
悠は小さく呟いた。
最初はただの小屋だった。
何もない、空っぽの部屋。
それが今では――。
自分が暮らすための場所になっている。
悠は椅子に座る。
机の上には、さっき森で採ってきた果物を一つ置いた。
窓の外から、森の風が入ってくる。
柔らかな光が部屋を照らしている。
「……」
悠は果物を手に取る。
一口かじる。
「……うん」
自然と口元が緩んだ。
ここなら。
静かに暮らせそうだ。
誰かに合わせる必要もない。
急ぐ必要もない。
必要なものは、自分で作ればいい。
悠は椅子に座ったまま、のんびりと窓の外を眺める。
最初は「小屋」だった場所が――。
少しずつ。
少しずつ。
悠にとっての「家」になっていった。




