Scene2 風呂
井戸を作った悠は、家の中へ戻った。
水の問題は解決した。
これで、飲み水にも困らない。
料理にも使える。
畑にも水をやれる。
「……」
悠は椅子に座って、少し考える。
そして――。
「……風呂も欲しい」
また一つ、欲しいものが出てきた。
昨日から森の中を歩き回っている。
家を作って。
畑を作って。
井戸まで作った。
身体もそれなりに汚れている。
「……風呂、入りたい」
そうと決まれば早い。
家の隣に、風呂場を作ることにした。
壁を作る。
床を作る。
屋根をつける。
そして中央に、少し大きめの湯船を作る。
「……こんな感じか」
水は井戸から引く。
湯船に水を張る。
次に――。
「温める」
火の魔法を使う。
湯船の水が少しずつ温かくなっていく。
熱すぎないように調整する。
「……これくらいかな」
悠は手を入れて確かめる。
ちょうどいい。
「……よし」
服を着替え、身体を洗う。
そして、ゆっくりと湯船に入った。
「……」
肩まで湯に浸かる。
温かい。
身体の力が、ゆっくり抜けていく。
「…………」
悠は何も言わなかった。
ただ、湯船に浸かっていた。
外からは森の音が聞こえる。
鳥の声。
木々を揺らす風。
遠くから聞こえる川の音。
その音を聞きながら、悠はぼんやり天井を眺める。
今までだったら。
学校から帰って。
人のいる場所を避けながら家に戻って。
疲れたまま一日を終える。
そんな毎日だった。
けれど今は――。
誰もいない。
急かされることもない。
自分の家がある。
自分の畑がある。
井戸もある。
そして、風呂まである。
「…………」
悠は目を閉じた。
しばらくの間、何も考えなかった。
ただ温かい湯に浸かっている。
それだけなのに。
妙に心地よかった。
やがて悠は、ゆっくり目を開ける。
「……異世界」
小さく呟く。
そして――。
「……悪くないな」
それだけ言って、また湯に沈む。
森の中の小さな家。
その隣には畑と井戸。
そして、温かい風呂。
悠の異世界生活は、少しずつ快適になっていった。




