第七章 大帝の決断
「古い某かの思惑……。セージュ、おまえは本当にそんなものが今の世まで続いていると思うのか?」
彼女の懸念を聞き切り、その単語をよく噛みしめた後、ミハルクは重々しくそう問いかけていた。
盟友ははっきりとうなずいた。
「はい。どこかの何者かの悪者がわたしの陛下への想いを悪用しているに違いないと痛感する次第でございます。したがって陛下のグレートお墓やモリモリ伝説を設計したわたしは何も悪くはありません」
ミハルクは目を閉じ、腕を組んでうなった。
何秒も何十秒もうなり続けた。
するとさすがに気まずくなったのか、若干気弱になったセージュの声が耳に入ってくる。
「あ、あの……陛下? もしかしたらわたしの思い過ごしかもしれません。手記を遺言と勘違いした大臣か若い将校が、人心をまとめる意味も込めてそのようなことを……」
「情けないッ!!」
「!? ×△×」
豁然と目を見開いて放った声が、人形の美しい前髪を豪と吹き上げた。
「真か偽かはさておき、300年も前の思惑に今の者たちがこうも踊らされようとは! たとえ大帝国の建国者といえども、たった一人の人間にどこまでやれるか考え及ばぬわけではあるまい。あの覇業は多くの者たちの犠牲と協力があって成し遂げられたのじゃ。決して大帝一人の功績などではない!」
びくりとセージュは肩を揺らし、そして過去を偲ぶように背筋を伸ばす。
「セージュ、決めたぞ。わしは自分の墓を暴く。この中に誰もいないことを、わし自らの手で証明してくれるわ!」
「陛下! それは……!」
「誰かの企みが本当にあるのなら粉砕してやろうではないか。まさかアヴァンサ帝自ら墓を掘りに来るとは思っとらんじゃろうしのう! 友よ、おまえもついてこい。300と50年ぶりくらいの冒険じゃ!」
「陛下と真夏の夜のドキドキ大冒険!? どこまでもお供いたします!」
「そうじゃろそうじゃろ! ちょうどさっき知り合った若者たちがおる! 彼らの手も借りて一気に本殿を陥れて…………あっ」
怒涛の勢いで行き交っていた二人の会話はそこで止まった。
「……内緒話は終わったかガキども」
そこには、半話分は無視されたままになっていたウォードッグの冷たく見下ろす双眸。
「さ、さすがにお待たせしすぎたかの……?」
「ああ」
彼にはさっき正体への大見得を切りかけていた。当然、むこうもその続きを聞けると思ったから今まで大人しく待っていてくれたはずだ。
しかし。
ミハルクはぱちん! と顔の前で手を合わせた。
「すまん、内緒じゃ!」
「あ?」
「わしらの正体については何も言えなくなった! 後生じゃ、ここでのことも見なかったことにしてくれ!」
アヴァンサがここにいると知られれば戦になる――。セージュから受けたこの警告は、墓にまつわる陰謀論よりも明確な真実だった。そうなれば墓荒らしよりももっと多くの犠牲者が出る。
「…………」
ウォードッグは、たっぷり五秒は壮絶な呆れ顔をして、
「ワケありか」
「う、うむ。何というか、わしが正体を明かすと世界がヤバい! のじゃ……」
ハアーとクソデカため息をつき、彼は何かをこらえるように首脇に手を置く。
「……いいだろ。どうせ俺は墓には興味がない。――見なかったことにしてやる」
「真か!」
「だがそのかわり。おまえがさっき見せた技、俺に教えろ」
ギラリと、これまで以上の追及の光を込めて彼の目がこちらを見据えた。
「さっきの技というと……『斬界』のことかの」
「そういう名か? 柄のメンテナンスカバーを開き……魔導剣の力を見たことのない領域まで高めていた。あれは何だ」
ウォードッグの目的は仇討だ。奪われた大切な者の命を、相手の命でもって贖わせる。力を欲する理由は痛いほどわかった。
「教えるのはやぶさかではない。しかしの……そなたの魔導剣……壊れておろう?」
「!!」
かすなか動揺が、前のめりになりかけていた彼を揺り戻させる。
「やはりか。少し妙な感じがしておったが、ジュエルコアに大きな損傷を受けておったのじゃな。あの技は人と剣が心を通わせ、人刃一体となることで初めて意味を成すもの。心臓部が傷ついたそなたの魔導剣ではそれはかなわぬ」
「…………」
「いかに有能な研ぎ師であっても、“地金”がいってはいかんともしがたい。見たところ、良品とはいえC級あたりのランクのようじゃ。今からでも別の相棒を探すというのは――」
「ダメだ、これは……これだけは」
ウォードッグの食いしばる口元が歪む。推し偲ぶにはそれで十分だった。
「ワケアリか。ならば何も言うまい。では、作法だけでも教えよう。まずは――」
その時だ。
「うっ……コホッ、ケホッ……」
お姫様だっこから背中に背負い直されていたイリアスから、苦しげな咳が漏れた。
「い、いかん、お嬢ちゃんが意識を取り戻した! ウォードッグ、さっきの約束を頼むぞ!」
「言い訳はおまえがしろ。俺は知らん」
「大丈夫でございます陛下。このセージュにお任せくだされば。あっ、今の陛下のお名前は何でしたっけ?」
「おまえも余計なことを言わずに、わしに同意だけしておればよい。いくぞ!」
※
「ケホッ、ケホッ! う、うん……」
こみ上げてくる咳と入れ替わりに、外の光が目に入ってくるのがわかった。
雫を一滴受けたような視界のぼやけはすぐに鮮明な像を取り戻し、自分をのぞき込む少女――いやこれは少年――の顔を確かめたイリアスは、自分の時間が飛んでいることをにわかに自覚する。
「おっ、め、目が覚めたかのうイリアス?」
「ここ、どこ? わたし、どうなって……」
寝起きの鼻声で紡いだ声が呼び水となって、塞がれていた頭の中が一気に整理される。
「門番は!?」
上半身を跳ね上げるなり、イリアスは周囲を見回した。
そうだ、ここはアヴァンシルの南門。自分はあの時、門番に『ノーツン・フォグア』が完全に破られたことで頭の中がぐちゃぐちゃになって、それで――。
「待って……。わたし生きてるの?」
思わず手を這わせた体のどこにも、傷らしきものは一つもなかった。特に胸。記憶の中で番人はこちらを串刺しにする準備を完全に終えていたのに……。
どこを探しても門番はいなかった。代わりに、見たこともない巨大な剣が床に突き立っている。番人の重甲冑どころか、城門でも断ち切るつもりのような果てしなく重厚な造りだ。心なしか、雰囲気が番人に似ているような……。
ここでイリアスは、気を失う前には確かにいなかった人物に気づいた。
「その子、誰?」
さっきから答えのないまま聞いてばかりだ――。そう思いつつ、ミハルクの隣にいる冬の妖精のような少女に焦点を合わせる。
年齢は彼と同じくらいだが、顔は人形のように表情に乏しく、けれども恐ろしく整っている。
本当に、自分が気を失っている間に何があったのか?
「落ち着いて聞くのじゃぞ」
オホンとミハルクが咳払いする。この時ばかりは、イリアスも素直に彼からの言葉を待った。そして、
「ようやった! 何とそなたの捨て身の攻撃が功を奏し、門番を撃破したのじゃ! キタ――(゜∀゜)――ッ!」
「は……?」
一人花吹雪でも舞わせるように盛り上がるミハルクに対し、イリアスが返せた反応はそれだけだった。
あれは捨て身の攻撃なんかじゃない。ただの自殺だった。家名を失い、家族さえも繋ぎ止められない惨めな自分を終わらせてほしい一心で……。
だがそれで勝ちを拾った……?
「ウォードッグ。本当なの?」
近くにいた用心棒に問いかける。彼ならば、デタラメを言ってこちらをからかうような愛嬌はない。
「ああ」
短いが、明瞭な答え。
「本当に、勝った……? わたしが……?」
「うむ。あの瞬間、そなたの熱き心に応えた氷剣バルキヘイムが大爆発を起こしてのう! 番人はそれに巻き込まれたのじゃ。それはそれは凄まじい破壊力で、さしものヤツも一撃でアウトじゃったよ!」
「何か……すごい早口で言ってるけど」
「えっ!!?? そ、そうかの……? わしはホラ、こう見えて結構せっかちじゃからして……」
目をそらし、指をぴこぴこ左右に振り出すミハルク。出会ってからだいたい自信満々でいた彼のこの態度は実に怪しい。
「それじゃあ、この子は?」
白髪、白肌、白い服。ついでに言えば、デカいアホ毛も揺れている。色づいているのは雪に埋もれたエメラルドの瞳だけ。
「ええっと、そいつはじゃな……。わしの古い友達で名前はセージュというのじゃ!」
「ふうん。……どうしてここにいるの?」
「それはそのぉ……。気づいたらいたのじゃ!」
「は?」
思わず低くなったこちらの声を掻き消すように、ミハルクは腕をブンブン振りながら釈明を強くする。
「見よこの姿を! 真っ白じゃろ! 実はこの部屋の壁際に最初からおって、誰にも気づかれなかったんじゃよ!」
「そんなことある……? ウォードッグ、どうなの?」
「ああ」
「なー! じゃよな、ウォードッグ! なー!」
「ああ」
「ああしか言えないのあなた!」
「おお」
「何がおおよ! じゃああの武器は何? 番人の鎧の色にそっくりだけど!」
「あれはわたしの得物だ」
それまで押し黙っていた白亜の少女――セージュが突然口を開いた。小鳥がさえずるような愛らしい声なのに、口調はやけに偉そうだ。
「番人はもういない。見るがいい」
細く美しい指が、指先で部屋の一角を示した。
イリアスははっとしてそれに見入る。南門の岩壁が頑なに守り続けてきた、大墳都アヴァンシル南エリアへと通じる扉。そこが、史上初めて開いた姿を見せていた。
ついに。ついに開かれた。そしてやはり門番はいないのだ。
であれば、彼に懸けられていた多額の懸賞金は――。
多重のガラスが砕ける音が、呆然としていた彼女の肩をびくりと跳ね上げさせる。
あたりに咲き乱れていた氷の華が一斉に割れて霧散したのだ。
「お嬢様……?」
そして、それらの氷塊が塞いでいた外門から、恐る恐る顔をのぞかせる二人の姿。
執事のヨーゼフとメイドのマリン。二人はこちらが床に座り込んでいるのを見て、血相を変えて駆け寄って来た。
「イリアス!」
不遜にも呼び捨てにしてくるマリンに、イリアスの胸に苦いものが渦巻く。
「イリアス! 大丈夫!? 何があったの!? ケガはしてない!?」
取り乱す彼女に何とか言い繕う言葉を渡そうとするも、それよりも誤魔化し笑いのミハルクの方が早かった。
「大丈夫じゃ、捨て身の攻撃で力を使って、気絶しておっただけじゃから」
「捨て身……」
マリンの顔がさあっと青ざめる。見通せないビン底眼鏡の奥の瞳が激しく揺らめくのが、なぜかわかった。
「無理しないでって、言ったのに……」
「ご、ごめん。ごめん、なさい。お姉ちゃん……」
メイドエプロンを掴み、肩を震わせるマリンに、イリアスは八年ぶりの呼び名だけを何とか口にできた。
「あなたにもしものことがあったら、わたし、わたしは……」
「本当にごめん。もうしない。絶対にもうしないから。ヨーゼフも、ごめんなさい……」
座り込んで涙するマリンを、イリアスは抱きしめた。自分より大柄な体をすべて包んであげることはできなかったけれど、本当に馬鹿なことをしたと深く自分を叱った。自分がいなくなったら彼女がどれだけ悲しむか、わかっていたはずなのに……。
と。
「さっきのでかい氷は何だったんだ……?」
「門番は? 門番はどうした!?」
マリンたちに続いて決闘場に入って来た人々が騒ぎ始めている。
「おい見ろ! 南エリアの扉が開いてるぞ!!」
誰かの声に、場が騒然となるのが伝わった。
一人が走り出せば、負けじと二人目、三人目が扉に向かって走り出す。まだ誰にも踏み荒らされていない未知のエリア。真っ先に飛び込めば、中の探索はしたい放題。あるいはそのまま中央の宮殿へ到達なんてことも――。
だが、そこに。
「おおーっと待ちーや!」
火焔が噴いた。
「お、おれの貴重な前髪がぁぁっ!」
焦げた臭いを纏わせながら、先頭を走っていた中年の後継者が尻餅をつく。その頭上をはるかに越える火柱に、後続の者たちも悲鳴を上げて立ち止まった。
「この先へは行かせません……」
狭霧のように密やかな声がそう述べ、扉の前にある短い階段上に大きな水しぶきが上がった。
その中から手品のように現れたのは、赤髪の“巫女”と、黒髪の“鬼導師”。
「カイナ!? リンナ!?」
その有名過ぎる二人の名を、イリアスは四角い眉を逆立てて叫んでいた。
夕日色の髪をツインテールにした、勝気な顔立ちの少女がカイナ。巫女服の下に朱のスカートを履き、白いニーソックスでその短さを補ったつもりになっている。
深夜色の髪をストレートロングにした物静かな少女のリンナ。狩衣に藍のスカートを履き、こちらは短い足袋までの素足を無頓着に晒している。
どちらも帝国東部の古式衣装に身を包み、所持する魔導剣もあちら側の意匠が施された特別製。年齢はこちらと大差なかったはずだが、その実力、そして実績は比較にならない。
「〈グレイブナイツ〉の火龍と水龍だと……!」
「どうしてここにっ……!」
たった今行く手を塞がれた後継者たちも、忌々しい彼女らのことを口走った。
〈グレイブナイツ〉の実質的な指揮者たる団長ゼニスの懐刀にして組織の二大エース。魔導剣の若き天才少女たちだ。
アヴァンシルの探索中に彼女たちに捕縛され、魔導剣まで没収された後継者は数知れず。普段は団長の護衛を務めているはずの彼女たちがなぜここにとは、イリアスでなくとも真っ先に思いつく疑問だった。
「ふっふーん。ここは〈グレイブナイツ〉の緋と藍が預かったで! 誰も立ち入り禁止や!」
「何だとぉ!?」
独特なイントネーションで言い放った緋色巫女のカイナに対し、後継者たちは一斉に不満を露わにする。
「何の権限があってそんなことを言う! ここは大帝の庭だぞ!」
「今まで誰も南門の岩壁に勝てなかったくせに、横から手柄をかすめ取ろうとは恥を知れ恥を!」
「卑怯者! ペチャパイ!」
「何やてコラ! 言うてはならんことを!」
「カイナ……」
一瞬、口喧嘩に乗りかけたカイナを、相棒であるリンナが水を差すような静かな声で諫める。
「おおっと、あかんあかん。うちらはこの門を守りに来たんやった。おおきにな、リンナちゃん」
「何が守るだ! 結局おまえたちだって墓の中を調べるつもりだろう!」
「おまえたちはいつもそうだ! 綺麗ごとばかり並べやがって!」
「――いや、今回は彼女たちの言う通りにしてほしい」
そこにさらに割り込んでくる第三の声。
「シュプリムト!」
それを聞くなり、イリアスは強敵たちに向けて以上に犬歯を剥き出しにせずにはいられなかった。
同じく忽然と扉の前に現れた男は、まるで色のない世界に降り注いだ金貨の雨だった。
豪華絢爛、満艦飾。年齢は二十そこそこ、高い鼻に涼しげな目元と顔立ちこそ爽やかで通ったかもしれないが、金と銀の薔薇というとんでもなく悪趣味な刺繍の特注軍服にアクセサリーの数々が彼を必要以上にギラつかせる。
その中でも“もっとも高価”と称する本人自身の流し目が、嫌味ったらしくこちらの上を通り過ぎた。
「“極上なる”だ、イリアス嬢。極上なるシュプリムト。吾輩を呼ぶときはそこから始めておくれ」
キュピーン。
「歯が光った……」
「白光機能でも仕込んでいるのでしょう」
ミハルクとセージュのそんなすっとぼけた会話も、今のイリアスには届かない。
「誰がよ! 人との約束を当日にすっぽかして! 急用はどうしたのよ急用は!」
「そのドタキャンを我らが同盟主にさらにドタキャンさせられた吾輩というわけだよ」
「レリーフォナ様に?」
〈最終貴族同盟〉のリーダー、レリーフォナ。確かにあの人であれば、この傲慢で自由奔放な浪費家も指先一つで従わせられるが……。
「聞き給え諸君」と(極上なる)シュプリムトは無駄な美声を室内に広げた。
「我々は今日初めてアヴァンシル南部への進入を許された。しかしそれは中の住人たちにとっても同じ。この意味を理解できるかな?」
途端、後継者たちがざわつき始める。
「そう。今、北部で〈グレイブナイツ〉の進行を抑えている“ホワイトガンド”。西部で後継者たちを食い荒らしている“フェンリルヘイズ”、神出鬼没の“白顔面”。そういうヤツらがこの扉から飛び出してくるかもしれないという話をしているのだ」
『……!!』
空気が明確に変わった。シュプリムトが挙げた名前は、今日、後継者たちを恐怖のどん底に陥れている虐殺者たちだ。討伐不能。出会って命があれば大帝に謁見するよりもラッキーと言われる。
「吾輩とそこの乙女たちが、そういったバケモノをここで食い止めよう。これは、新たな道が開かれた場合に定められた、古くからの盟約だよ」
「そーいうこっちゃ。二、三日は危険がないかどうかここで見張らせてもらうで」
大墳都の中からモンスターがはぐれ出て来ることは、この街では珍しくないことだ。同盟と騎士団双方の実力者がこう正論を張っては言い返せる者などいない。後継者たちはブツクサ言いつつも、一人また一人と外門の外へ出ていく。
そうして彼らがすっかりいなくなった後――。
「よーやく諦めたか。これで栄えある初めの一歩を横取りされずに済むなあ、イリアっちゃん」
「……!?」
いきなりカイナから名を呼ばれ、イリアスは眉毛を思い切り跳ね上げた。
「ど、どうしてわたしの名前を……?」
「知らんかったん? 騎士団でも意外と有名なんよ。貴族やけど街に出たモンスターを退治してくれる同盟の女の子て」
カイナは人懐こい顔をにこにこさせながら言ってくる。対して、イリアスの気持ちは複雑だった。
「あっ、ええねんよ。“嘆きのサファイア”とか家が貧乏で仕方なくとかそういう事情は。人間、行動がすべてや。イリアっちゃんは街の人を助けてくれてる。それだけで好感度爆上がりなんよ。おおきになあ」
「ど、どうも……」
悪意のない感謝を向けられ、イリアスは少し照れ臭くなって顔をうつむけた。
「けど、イリアっちゃんのチームが南門の岩壁を墜とすとは思っとらんかったなあ。用心棒もそこまで強いとは見えへんし……。それに、そのちっちゃ可愛い女の子二人は何なん? メイドさん見習いとか?」
ギクリとした。ミハルクのおかげで奥義が本来の力を取り戻たと聞いたら、この騎士団のエースはどんな行動に出るか。いや他の誰でもだ。絶対に明かせない……。
が、そんな心配など微塵も汲み取らない気楽な声が横から返る。
「ああ、お嬢ちゃん。わしはこれでも男じゃよ。こっちのセージュは女の子じゃがな」
「ええ!? 君、男の子やったん!? うっわ、超カワイイやん! ウソやん! なあ見て見て、リンナちゃん!」
「…………」
話を振られたリンナが、それまで生真面目に扉を見据えていた目を初めてこちらへと正対させる。
カイナに比べて口数が極端に少なく、その分底の知れない少女だ。噂では、表情一つ変えずに敵対した者を斬り捨てるという。
しかし、ミハルクはそんな彼女を親しげに見つめ、
不意にニコッと笑った。
「!!!<◎><◎>???」
それまで水のように静まり返っていたリンナの表情が大きく揺らぎ、ついでに階段の最上部に乗せていた足も踏み外した。
「おわーっ! なんやリンナちゃん! いきなり上から覆いかぶさってくんなや!」
「ご、ごめんなさい……。すみません……」
クールな少女の第一印象を台無しにし、顔を真っ赤にしながら下段に陣取っていたカイナに詫びる。彼女が咄嗟にガニ股になって踏ん張ってくれなければ、二人そろって転がり落ちているところだ。
「……まあ、愉快な彼女たちのことは放っておくとしてだ」
階段の反対側でわちゃわちゃしている二人を白けた目で見、シュプリムトが一つ咳払いした。
「イリアス嬢、レリーフォナ様が同盟ギルドで君をお待ちだ」
「レリーフォナ様が?」
一瞬、呼び出される理由を思いつかず、イリアスは怪訝な声を返してしまった。
だが、そんなことをする必要はないのだ。自分が本部に凱旋する理由は、たった一つしかなかった。
「南門を突破した君は今や同盟の英雄だ。同盟主に直接ご報告し、そして報奨金を受け取り給え。一千万クーネル。君の人生を取り戻す金だよ」
切りどころをドジって構成がズタボロに……。
ひとまず、まだ見ぬ(もう見た)強敵たちの登場までということで……。




