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能力

「っていうかミナさん、そのドロドロしたアニマ、一体何なんですか? さっき石像を外から操ってたって言いましたよね」


僕は額の汗を拭いながら、ミナの手のひらでスライムのようにうねうねと動く物体を指差した。


見た目はただの半透明なアメーバだ。マスコットキャラクターと言えなくもないが、何とも形容しがたい不気味さがある。


他の一軍生徒たちが従えているクリスタル製の蝶や炎のトカゲのような、分かりやすい強者感は微塵もない。


「あ、これ? 私の可愛いアニマの『アメちゃん』だよ! 見た目は地味だけど、触れた物を自由に操れるっていう、めちゃくちゃ便利な能力を持ってるんだよねー」


ミナは自慢げに胸を張り、アメーバ状のアニマを僕の目の前でボヨンボヨンと弾ませた。


可愛い見た目からはおよそ想像もつかないが、こいつがさっきの古代石像に憑依し、防衛術式を無理やり


ハッキングして僕たちを殺しかけた張本人というわけだ。


「物を操る、ですか。でも、あんな巨大な石像を四体に増殖させたり、あれだけのパワーで動かすなんて、相当な霊力がないと無理ですよね?」


「そこがアメちゃんの面白いところなんだよねー! この子の問題は、出力が私のテンションに完全に依存してるところにあってさ」


ミナは人差し指をチッチッと左右に振る。


「普段、授業中とかで私のテンションが死んでる時は、机の上の鉛筆をごろごろ動かすのが関の山なの。でもね、今回みたいに『シュリ様とトウマくんの秘密を暴いちゃうぞー!』って脳汁がドバドバ出てる時は、石像だろうが、走ってるトラックだろうが、何でも好き放題に操れちゃうわけ!」


「それでDランク……」


「なんてはた迷惑な出力のブレ方なのよ……」


隣で聞いていたシュリが、本つまりミナは、気分次第で国家機密級の破壊兵器にもなれば、ただの文房具泥棒にもなるという、学園で最も敵に回してはいけないタイプの狂戦士だった。


気で呆れたような声を漏らした。


「だからさ、二人が仲間に入れてくれないなら、次回の試験の時、私のテンションがどうなるかわからないよ? あはは、絶対面白い!」


「あなた、本当に一回真空の彼方に消し飛ばされた方がいいわね……」


シュリが本気の殺意を宿して拳を握りしめるが、秘密を握られている以上、これ以上の手出しは裏目に出る。


こうして、僕たちはミナという凶悪な爆弾をチームに迎え入れる羽目になったのだった。



壊れた美術倉庫の後片付けを風紀委員に見つかる前に済ませ、僕たちはなんとか教室へと戻ってきた。


隣の席で、相変わらずチョーカーを気にしながら「本当に最悪だわ……」とブツブツ呪詛を吐いているシュリを横目に、僕は自分の机に突っ伏しながら、先ほどの戦闘について深く思考を巡らせていた。


戦いの最中、シュリの背後に迫る不可避の奇襲を避けるため、僕は彼女を『異空間』へと退避させた。


あの瞬間、僕の魂の奥底でカチリと何かが噛み合う音がした。あれは理屈ではない。僕の身体が、魂の感覚で直接理解した、僕自身の本当の能力の正体だった。


(僕の霊力ゼロというのは、本当にただのゼロなんかじゃない)


普通、この世界の人々は生まれてすぐにアニマを顕現させ、霊力を外へと放出することで術を扱う。他人のアニマを出しっぱなしにしている奴らは、そのエネルギーを周囲に撒き散らしている状態だ。


なのに、僕はどれだけ測定しても「ゼロ」だった。


それは、僕に霊力がないからではなく、僕の能力のベクトルが、この世界の誰とも真逆を向いているからだろう。


シュリの能力は、霊力によって空間に真空を作り出し、それを凄まじい衝撃波として外へ放つ『出力』の能力。


それに対して、僕の魂の本質は、周囲のあらゆるエネルギーを底なしに引きずり込む『吸収』の力。


性質としては、僕たちの能力は完全に美しく対になっている。


出力のシュリと、吸収の僕。


さっき、僕の空白の引力とシュリの真空破が合わさった時に起きた、あの次元の違う大爆発がその証拠だ。


僕の魂が周囲の阻害結界を根こそぎ吸い尽くして空間を更地にしたからこそ、シュリは本来の野生の最大出力を何倍にも跳ね上げて解放することができた。


霊力測定器が僕を「ゼロ」と判定し続けていた理由も、今ならよく分かる。


あの水晶体の台座は、外へと放出される霊力を測定するためのものだ。しかし、僕の魂は内側へと向かう絶対的な引力そのもの。あそこに表示されていたゼロは、「何もない」という意味のゼロではない。


突き詰めると、測定器のメモリを突き抜けて、底なしの『マイナス』へと突入しているような、そんな圧倒的な空白。


「……ちょっと、トウマ。さっきから黙って、私の顔をじろじろ見ないでくれる? パシリのくせに生意気よ」


不意に隣から声がして、僕の思考は遮られた。


見ると、シュリが少し頬を赤くしながら、僕を睨んでいた。


どうやら、僕が考え事をしながら彼女の方をずっと見つめてしまっていたらしい。


「あ、すみません、シュリさん。ちょっとさっきの戦いを思い出していて」


「……ふん。まあ、さっきのあなたのサポートは、その、悪くなかったわ。私の足を引っ張らなかったことだけは、褒めてあげてもいいけれど」


シュリはツンとそっぽを向きながら、チョーカーの下の首元をそっと指でなぞった。


言葉では強がっているが、彼女自身も気づいているはずだ。僕のマイナスの引力に触れている時、彼女の中の荒れ狂う霊力が、驚くほど心地よく安定することに。

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