表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/21

新聞部の乱入

ハルトとスタジアムの地下に眠る陰謀について言葉を交わした後、僕のポケットの中で端末が短く震えた。


画面を確認すると、そこには


『今すぐ北棟の地下にある旧放送機材室に来なさい。遅れたら真空に沈めるわよ』


という、シュリからの有無を言わさぬメッセージが表示されていた。


彼女の次の試合まではまだ一時間以上のインターバルがあるはずだった。


ハルトに


「ちょっとシュリさんに呼び出されたから行ってくる」


と告げると、彼は文庫本から目を離さないまま


「お前も大変だな。奴隷の義務を果たしてこい」


と短く手を振った。


ハルトは地下に『霊力循環吸着陣』が存在することこそ自力で突き止めたが、シュリの正体や僕の魂のバグについては何も知らない。


このまま観客席の隅で大人しく寝ていてもらうのが一番だった。


スタジアムの喧騒から離れ、冷たいコンクリートの通路を通り抜けて北棟の地下へと向かう。


指定された旧放送機材室の古びた鉄扉を開けると、そこには案の定、不機嫌そうに腕を組んだシュリが立っていた。だが、部屋の中にいたのは彼女だけではなかった。


「──おやおや、ようやくお出ましですね。最底辺のパシリくん」


薄暗い部屋の奥から声をかけてきたのは、眼鏡の位置を指先で直す男──新聞部の副部長だった。


その後ろには、先日僕たちを執拗に追い回した部員たちが数人、カメラを抱えて不敵な笑みを浮かべて控えている。


「シュリさん、これは一体どういう集まりですか?」


「私が聞きたいわよ。この羽虫ども、私の次の対戦相手のデータを渡すからって、私とあなたをここに呼び出したのよ。小賢しい真似をしたら、この部屋の空気を丸ごと消し去ってやろうと思って待っていたところよ」


シュリの琥珀色の瞳に、本気の殺意が灯る。しかし、新聞部の副部長は怯えるどころか、さらにゲスな笑みを深くした。


「そんなに殺気立たないでください、シュリ様。僕たちだって、こないだの雪辱戦のために、君の姿の見えないアニマの正体を暴こうと必死だったんですよ。だからこそ、闇市場で大金を叩いて、特製の『アニマ抑制の霊具』を仕込ませていただきました。本当に高かったんですから」


副部長が指をパチンと鳴らした瞬間、彼らの背後にある古びた台座の上に置かれた、複雑な呪文が彫り込まれた銀色の彫像が怪しく発光した。


室内の空気が一瞬にして重くなり、アニマの活動を強制的に全否定する、強烈な抑制の波動が部屋中に満ちていく。


新聞部の目論見としては、シュリの背後にいるはずの「姿の見えないアニマ」の霊力を縛り、その正体を強引に白日の下に晒すつもりだったのだろう。


ところが。


「うっ……、あ……っ!?」


術式が発動した瞬間、激しく顔を歪めてその場に膝を突いたのは、術者であるはずのシュリ、彼女自身だった。


華奢な胸元を自ら抱え込むようにして、荒い息を吐き出すシュリ。


瞳からはいつもの傲慢な光が消え失せ、目に見えて彼女自身の霊力が激減していくのが分かった。感覚としては、通常の半分以下まで出力が落ち込んでいる。


「え……? ちょっと、なんで……!?」


それを見て、仕掛けた側の新聞部副部長が、真っ先に困惑の声を上げた。


「おい、どうなってるんだ!? あの霊具はアニマの力を強制的に抑え込むものだろう!? なんでシュリ様が苦しんでるんだよ!? 姿の見えないアニマが引きずり出されるはずじゃ……」


「わ、分かりません! アニマの気配はどこにも感知できないですし」


部員たちが端末を叩きながらパニックに陥っている。


(しまっ……! シュリさんはアニマを使っている人間じゃない、彼女自身がアニマなんだ……!)


僕は背中に冷や汗が流れるのを感じた。


アニマを無力化する最高級の霊具を使ったせいで、彼女の肉体が直接その大ダメージを喰らってしまっているのだ。


このままだと、彼女の身体に重大な負荷がかかるか、あるいは彼女自身が人間ではないという決定的な証拠が、新聞部たちに露呈してしまう。


僕の奥底にある『空白』の力で、あの銀色の彫像の霊力を一気に吸い尽くして壊すべきか。


シュリの呼吸がいよいよ限界を迎えたように浅くなりだす。


(──やるしかない)


僕は静かに歩を進め、膝を突くシュリの前に立ちはだかるようにして、銀色の彫像との間に割り込んだ。


そして、自分の内奥に潜む、すべてを無に帰す絶対的なマイナスの霊力を、部屋全体へと一気に解放した。


フッ、と室内の明かりが一瞬だけ、不自然に暗転したような奇妙な錯覚。


次の瞬間、部屋中に満ちていた重苦しい抑制の波動が、目に見えない巨大な穴へと滝のようにズズズと吸い込まれ、綺麗さっぱり消滅した。


それだけではない。波動の供給元であった銀色の彫像が、自らの放ったエネルギーを根こそぎ逆流させて吸い尽くされたことにより、内部の霊核からメキメキと不気味な亀裂の音を響かせた。


パチン!!


鋭い破裂音と共に、彫像の表面にびっしりとヒビが入り、怪しい光は完全に消失した。


ただの冷たい鉄クズへと変わり果てた彫像が、台座の上から床へと力なく転がり落ちる。


「な……え? 霊具が……壊れた……!?」


副部長が、間の抜けた声を上げて目を丸くした。


「あ、すみません。僕、霊力がなさ過ぎて、こういう霊力を抑え込むような特殊な電波の受け皿には丁度いいみたいなんです」


僕は頭を掻きながら、いつも通りの卑屈なパシリの笑みを浮かべてみせた。


「シュリ様ほどの規格外の術者になると、使霊との同調率が高すぎて、霊具の拒絶反応が本人に逆流しちゃうんですよね。だから僕がパシリの義務として間に割り込んで、その逆流した過剰なエネルギーをフッと吸い取って逃がしただけです。ほら、僕には元々、吸い取られて困るような霊力なんて一ミリも存在しませんから」


実際には、僕のマイナス引力が部屋のエネルギーを根こそぎ自分の内奥へ吸い尽くしただけなのだが、霊力を持たない無能の「特異体質によるアース現象」として誤認させるには十分だった。


新聞部の連中は、目の前で起きた異常現象と、僕の得体の知れない「無能さ」に冷や汗を流し、一歩後ろへと後退した。


「……あなた、本当に不気味な奴ね」


霊具から解放され、自由になったシュリが、荒い呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がった。


彼女の目には驚きと、それ以上の強い戦慄が走っている。


彼女は僕のマイナス霊力についてある程度知っているが、精密な最高級の霊具を、周囲に衝撃波一つ起こさず無音で吸い尽くして完全破壊してみせたその制御の精度に、裏で本気で驚愕しているようだった。


シュリはキッと表情を作り直すと、チョーカーの巻かれた首元を押さえながら、いつもの冷徹な表情を張り付かせて新聞部を睨みつけた。


「……当然よ。放っておいても、あんな安物、私の霊力で内部から引き千切ってあげたわ。それをこのパシリが、私の手を汚させまいと余計な先回りを下だけに過ぎないわよ」


「お前……ただの無能じゃないな……?」


「ただの無能ですよ。それより副部長、僕たちを嵌めるのが目的じゃないですよね。霊具が壊れてショックなのは分かりますが、本当の用件は何ですか?」


出鼻を完璧にくじかれた副部長は、額の汗を拭うと、苦り切った顔で眼鏡をかけ直した。


彼は大きく一つため息をつくと、手元の端末の画面を僕たちに向けて差し出してきた。


「……チッ、いいですよ、もう雪辱戦は終わりです。本題に入りましょう。僕たち新聞部は、君の『見えないアニマ』の波形を盗撮するために、スタジアムの地下の集電配線付近にアニマをセッティングしていたんです。そしたら……偶然にも、信じられないものを目撃してしまったんですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ