8.
◇
「はぁ〜、お腹いっぱい。全部美味しかったあ。今日はありがとう」
結局二人で他愛ない話をしながらあれこれ食べて、私は気持ちをこぼしてしまうこともなく、無事食事を終えた。
夕食は食べられないかも。
「いい食べっぷりだったな。最後のダンスまで残れなくて悪い」
「ダンスは恥ずかしいからいいよ」
「城の舞踏会と違って好きに踊れるから楽しいのに」
「……一緒に踊ってくれるなら考える」
「じゃあ、来年こそは」
「さらに忙しくなってそー」
クスクス笑うと、シグルド殿下は険しい顔をしていた。
「現実になりそうだから、言わないでくれ」
「そうだね、ごめんなさい」
「よろしい」
魔力の問題が解決したシグルド殿下は、王太子の責務を果たすのに忙しい。そんな中、貴重な時間を私のために使ってくれることが嬉しかった。
「はぐれないように手を繋ごう」
「は、はいっ」
なんかもう卑怯だよ、シグルド殿下……。
私の心、鷲掴み。
◇
「わたくしは許さなくてよ」
「え、あの……」
どちら様……?
許さないっていったいなんだろう。
「貴女にシグルド殿下は渡しません!」
「シグルド殿下は誰のものでもないと思うのですが……」
「と、とにかく! わたくしはフィズア公爵家のリアナ! もう貴女の好きにはさせないわ! 見てなさい!」
そう言って昼下がりの王城の廊下をヒールで走り去っていく長い金髪とピンクのドレス。
面倒臭いことには巻き込まれたくないんだけどなあ。
◇
最近は夜寝る前にも少しだけシグルド殿下との時間がある。その日あったことを報告しあっている。
「リアナか。婚約の申し込みも王家側から正式に断っているんだが。諦めるつもりがないみたいで私も困っているんだ」
「え、思ってたよりやばい感じだね……」
「カスミも気をつけてくれ。そうだな、護衛騎士をつけよう。前から考えていたんだけど、いい機会だしな」
「護衛騎士……大ごと……」
人選を悩みはじめたシグルド殿下の横で、私はのんびりちょっと渋いお茶を啜った。
最近ハマっているお茶で、こちらの世界では一般的らしいんだけど、例えようのない味だったりして。
デトックス効果があるらしいので愛飲している。
「カスミはもうなくてはならない人だ。それを自覚してくれ」




