5.
◇
魔法にも色んな種類があるらしいけど、放出するのに一番簡単なのが呪文を唱える方法だそうで、でも私はそこで躓いていた。
シグルド殿下が私にかけてくれた通訳魔法が、魔法の呪文では発動しないのである。
発音の難しい言葉を聞いたまま再現しなければならない。
魔法を教えてくれるのは、宮廷魔法師の二十代後半くらいのお兄さん、レーヴェ先生。長い水色(!)の髪を一つに結んだ眼鏡の奥の瞳も淡いブルーな儚げ美人な人だ。
「難易度高すぎですよー。泣きそう」
「よく使う言葉から覚えましょうか。復唱して下さい」
「はあい」
こうして区切った単語の発音を習得することから、魔法の実技は始まった。
◇
「断っても良いですにゃ」
「でも、公爵令嬢からのお誘いって断って大丈夫?」
「カスミ様はシグルド殿下のお妃様候補ですから、胸を張って下さいませにゃ」
「え、いつそんな候補に?」
「貴族の間ではその話題で持ちきりにゃんです。国王陛下もシア妃殿下も公認した仲だと」
「ええ!? 当事者だけど蚊帳の外かも、私」
そんな話聞いてないー。
シグルド殿下はどう思ってるんだろう。
この話、耳に入ってるのかな。
ふと部屋に飾ったスゥラが目に入る。
恋の訪れ……いや、まさかね。
◇
「じゃあ、今日もやろうか」
「あ、うん」
浅く頷いて、手を繋ぐ。
心なしか、最近殿下と触れ合っていると鼓動が早くなる気がする。
ぽかぽかする身体はそのままだけど、なんだか意識してしまってシグルド殿下の顔が見れない……って、良くないぞ、こんなの。
ズンとくる重さはまだ相変わらずあるけど、渡される魔力の量も増えたし、少しずつだけど、使える魔法も増えてきた。
シグルド殿下に魔力量を増やされてもまだまだ容量に余裕もあるだろうとのことだし、私は魔力循環が上手いらしく、レーヴェ先生にもシグルド殿下にも褒められて嬉しかった。
シグルド殿下の何気ない優しさが嬉しいのは、恋、なのかな……?




