記憶
ドン勝と言われると太鼓の達人かな? ってなる私です。
鳴き声が聞こえる。
微睡みの中、耳をすました。
なんだか落ち着く懐かしさを感じる鳴き声。
長く過ごした場所に帰ってきたようで心が安らぐ。
このままずっと聴いていたい。
だがそれは徐々にはっきりと、声へと代わって行った。
「にゃ……おき……にゃ……起きるのにゃ! ご主人!」
「のわっ!? なっ、なに!?」
微睡みから強制的に覚醒された蒼太はあわてふためきながら声の主を探す。
だが周りを見渡しても誰もいない。
いつもの自分の部屋だ。
「こっちにゃ」
「みー……ちゃん……?」
足元を見るとそこには一匹の見覚えのある居るはずのない猫がいた。
「お久しぶりだにゃ。ご主人」
みーちゃん。
数年前に死んだはずの飼い猫だ。
その青い瞳と夜闇に溶けそうな漆黒の毛並みは見間違えようもない。
「なんで……死んだはずじゃ……てか喋ってる!?」
確かに声色や見た目は似ているが喋る猫なんて知らないと後退りする。
「あちしは蒼太の記憶の中に残った存在の欠片みたいなもの。だから喋りもするしここにいる訳じゃにゃいよ?」
「幻覚か……僕もとうとう頭やられたか?」
「そうにゃね。だいぶやらてるにゃ。だからちょっと治しておくにぇ」
「あぁ……有り難う……っ!?」
幻覚にまで心配されてますます自分の頭がおかしくなったかと思っているとみーちゃんが飛んできて蒼太の額に肉球を押し付けた。
「いっ……!?」
その瞬間、鋭い痛みが頭に走った。
針金を刺されたかのような痛みは頭を弄くられるような不快な感覚だけではなく記憶を連れてきた。
それらは今まで都合よく解釈されていた存在しない者の記憶。
そして大切な者を守れなかった苦い記憶。
「みーちゃん……君は……!」
その時の蒼太の瞳に宿ったのは怒りであった。
「ここにいないあちしに怒ったってしょうがにゃいでしょ?」
「……そうだな。幻覚に何を言ったところでただの自問自答だ」
蒼太は一度大きく深呼吸をすると立ち上がった。
「……ふっ!」
そしてその動作から流れるように『みーちゃん』に向けて勢いよく手を伸ばした。
その手に込めた願いは復讐か慈愛か。
蒼太自身にも分からなかった衝動的な行動はしかし何も掴めずに空を切る。
「にゃしししし……まぁうまくやるにゃよ」
「もう忘れてやんないからな」
「猫は食べ物に対する執着心が強いにゃよ? そう簡単に忘れさせにゃい」
みーちゃんは猫なのにいたずらっぽく笑うと足元からさらさらと闇夜に溶け始めた。
「ルルは力を使った公園にいるにゃ。蒼太ならきっと助けられるにゃよ」
「でも僕なんかに……」
「また何もかも無くしたいのかにゃ?」
「……」
みーちゃんの言葉は耳に痛かった。
しかしルルリエがいれば奇跡が使えるとはいえ自分一人には何の力もないのは事実。
向かったところで何も出来やしないのではないか。
もう無力感にうちひしがれるのは嫌だった。
そんな蒼太の葛藤をみーちゃんは「にゃしし」と笑う。
「蒼太の中にはあちしの欠片が残ってる。それをうまく使うといいにゃ」
「あの時の……?」
「そうにゃ。もう一度悪夢を思い出すと良いにゃ」
「……こんな弱虫な僕に助けられるかな」
「やるしかにゃいよ」
「僕のすべてを奪った君が良く言うよ」
「あちしはあちしの欲しい物を手に入れようとした。だから蒼太も自分の想いに正直ににゃるにゃ」
「想いに正直に……か」
「にゃししし……ま、やりたいことをやればいいにゃよ」
みーちゃんはそのまま笑いながら夜の闇に溶けるようにして足元から消えて行った。
瞬きを一つした後、そこにはまるで最初から何もなかったかのように暗がりがあるだけだった。
「夢か現実か……」
それがなんだったのか考えるのは後回しにして蒼太は頭を振るとルルリエ達の安否を確認しに向かった。
「居ない……」
ルルリエやセン、それに霧子の姿は家のどこにも居ない。
その事実は幻に見せらた記憶が本物であるという事を裏付けることになった。
「急がなきゃ……!」
蒼太は家を飛び出した。
だがその足は人の物。
公園まで10分はかかる。
「みーちゃん!」
そこで叫んだのは飼っていた愛猫の名前。
すると走る蒼太の身体から黒い霧が滲み出てきた。
まとわりつくその霧はやがて一つの姿を形作る。
「これは……」
すると蒼太の身体は黒い体毛に覆われ両手足には大きな爪が生えてきた。
さらに頭には三角の耳、尾骨のあたりには尾が伸びる。
まるで狼人間にでもなったかのような姿は蒼太にとって懐かしい物であった。
「せっ……!」
爪をアスファルトに食い込ませ地面を蹴ると蒼太の身体は一つの弾丸のように射出された。
夜闇を切り裂くその速度はもはや人間の限界を超えていた。
「間に合えっ……!」
黒い風となった蒼太は夜の街を駆ける。
今度こそ大切なものを守るため。
次らへんで因果関係はっきりするかも!
主人公はやっぱこうでなくちゃね。




