それはもふもふですか?
はい。とってももふもふです。
「くっ……煮るなり焼くなり好きにせい!」
けもみみ少女は悔しそうな顔で後ろ手を縛られながら吐き捨てるように言う。
「いや、別に取って食うわけじゃないから……よし、と。こんなもんか?」
その姿はまた暴れられても困るので蒼太がビニール紐で縛ったものだった。
犯罪的に見えるが他意はない。
他意はないのだ。
ちなみに蒼太の背から出ていた空気の腕はけもみみ少女を押さえつけると言う役目を終えると跡形もなく霧散した。
「さて、先ずは君が何者で何のためにこんなことをしたのか洗いざらいはいてもらうよ。誤解もあるだろうしね」
「ぬぅ……致し方なし、か」
もう逃げられないと悟ったけもみみ少女は観念して蒼太を襲った理由を話し始める。
「わしの名前は先白狐。五穀豊穣を祈られて生まれた狐の神である。事の始まりはわしが社から追い出されたことからじゃ……」
「えぇ……社って神社だよね……追い出されたの?」
「そうなのじゃ! 人が増えるにつれてわしの社は小さくなり、忘れ去られ、最後は土地開発とやらで木っ端微塵! じゃから迷い神に落ちぶれたわしは住む場所を求めて彷徨っていたのじゃ……」
けもみみ少女は悔しさを噛みしめるように空を見上げて目を閉じた。
人から必要とされて産まれた神は時代が進むにつれてその存在を薄れさせ、最後にはお役御免とばかりに潰される。
このけもみみ少女――先白狐はそんな人間の身勝手が産み出して生み出した迷い神であった。
「でもわしは神故そう簡単に定住できる場所は見つからん。このままでは消えてしまう。そんなとき妖気を漂わすお主たちに出会ったのじゃ! これを運命と呼ばずしてなんと言う!?」
「だからその妖気って何? 臭う?」
「すんすん……たんぱく質って感じで普通に人間臭いのだわ」
「……それ誉め言葉?」
「そうなのだわ?」
嗅いでみてくれたルルリエの率直な感想に蒼太はどう反応して良いかわからなかった。
微妙な顔をする蒼太に先白狐は咳払いをして続ける。
「妖気とは物の内に秘められた生命力のようなものなのじゃ。普通はそれが外に漏れ出すなどと言うことはあり得ぬ。そう。霊的なものにとりつかれたりせぬ限りはな……」
「生命力ならルルちゃんに吸われてるよ」
「いただいてるのだわ」
「なぬ!? やはりこの童女が妖怪か!?」
「いや、妖怪かはわかんないけどこの子は違う世界から来た機械人形だよ」
「おーと……また……?」
「機械で出来た人形なのだわ。ほら」
「ぬおっ……なんと面妖な……」
先白狐は肌の迷彩を解いたルルリエの人差し指を眉間にしわがよるほど凝視する。
「と、言うことは妖気で動くからくり人形のようなもので妖怪の類ではない。か……もしかしてわし、早とちり?」
「うん」
「そ、それは……ご免なさいなのじゃ……」
先白狐は耳をへたれさせ、素直に謝った。
どうやら根は良い子の様だ。
「でもなんで妖怪退治にこだわってたの?」
「今の時代、妖怪にとりつかれるなど相当霊感の強い者しかおらん。じゃから妖怪払いでもしてその礼にわしを家においてもらおうと言う浅ましい考えで近づいたのじゃ……」
「たくましいと言うかなんと言うか……神様ならそれこそ奇跡でも起こして再興できそうなものだけど……」
神様と言うくらいなら人を操って祠の一つや二つ建ててしまいそうなものだがそう言うわけにはいかないのだろうか。
大体すんなり壊される社とはどれ程知名度が低く廃れていたのだろうか。
そんな蒼太の勘繰りを察してかけもみみ少女は説明をする。
「恐らくわしら神の使う奇跡とおぬしたちの使っていた奇跡は全くの別物なのじゃ。妖力……生命力を消費するのは同じじゃがわしらの使う奇跡はあくまで雨を降らせるなど偶然の収束に過ぎん。じゃがお主たちのそれは何かが違う。なんか起こり得ない力場を無理矢理引き起こしているかのような強引さを感じるのじゃ」
「強引さ……か」
そう言われると思い当たる節があった。
いくら奇跡が聞こえの良い万能の物だとしても対価が腹減りだけでは都合があまりにもよすぎる。
だがルルリエ自身はよくわかってないらしく首をかしげている。
この「奇跡」は言ったいどんな代物なのかは彼女の製造主である「お父様」にでも聞かないと分からないだろう。
「それはそうと誤解とわかったことじゃしそろそろほどいてもらえんかの? 腕がしびれてかなわん」
「そうだね。もう暴れる理由はないし……と言うか狐って言うくらいなら変化して抜けられるんじゃないの?」
「……そうじゃった」
先白狐は言われて初めて気づいたような顔をするとぽんっと言う効果音と共に金色の毛並みを持ち、尾の先だけが白い小狐の姿になった。
「変化と言うのも長らくやってなかったもんじゃから忘れとったわ」
「かっ……かわっ……」
「ん? なんじゃ? わしの神々しさに驚いたか?」
「可愛いー!」
「ぎに゛ゃー!?」
そのあまりの愛くるしさに思わずルルリエが飛び付いた。
「何をする!?」
「こんな可愛い生物はみーちゃん以来なのだわー!」
「ぎゃー! わかったから! わかったからすりすりするのを止めるのじゃ!」
先白狐は頬擦りをしてくるルルリエから距離をとろうと両手でその顔を押す。
だが子狐の力では人間離れしたルルリエに全く敵わず、蒼太が流石に可愛そうに思って止めるまでされるがままであった。
じゃが……じゃがー……ジャガー……ジャガーマン
わかるマン!




