けもみみ
2/22ですが今回の話はねこじゃありませんがねこはいます。ねこです。よろしくおねがいします。
その後、服を見て回り食料品も買い込んだ蒼太たちが帰るころには夕方を通り越してすっかり夜になっていた。
「っだぁー! 疲れたぁ~!」
とっぷりと夜に浸かった住宅街から香る夕食の匂いが彼らの足を急がせ家についた時間はそれほど遅くはならなかったのだが歩きっぱなしだったため足が棒のようだった。
「じぁあ夕飯の準備でもしようかしらね」
「私も! 私も手伝いたいのだわ!」
「あら? やってみる?」
持たされた荷物の差か日ごろの運動量の差か。
疲労困憊の蒼太と比べて元気な霧子とルルリエは料理の話題で盛り上がり始める。
「僕も何か……」
「カップラーメン男はなにもしないで! テレビでも見てて!」
「むぅ……」
自分も何か手伝おうと腰を上げた蒼太は霧子の強い制止に不満げな表情を浮かべてすごすごと居間へ退避した。
「僕だって目玉焼きくらい作れる」
蒼太はなにもできないと思われたのは心外だと言わんばかりの一人言を呟いてリモコンのボタンを押す。
黒い画面に光が灯り映されたのはしょうもないバラエティ番組であった。
特別見たいものもないのでそのまま台所から聞こえてくる姦しい声を聞きながら孤独をごまかす。
ピンポーン
そんなむなしい時間に慣れてきた頃、家のチャイムが鳴らされた。
「お兄ちゃん出てきてー」
「うぃー」
ほとんど人が来ることのない水野家に来る人と言えば、宗教か新聞の勧誘だろう。
台所からの声に腰を上げると断る文句を頭の中で反芻しながら蒼太は赤く点滅するインターフォンに出た。
「はーい」
『あ、聞こえてるかの?』
「はい? 聞こえてますけど?」
『やっぱり見間違いではなかったのじゃ!』
「……?」
変な口調の訪問者は幼い子供のような声で訳のわからないことを言う。
『ちなみにお主は神様とか信じるかのぉ?』
「あっ、うち宗教とかやらないんですいません。それじゃ」
『え? ちょっ、まっ――――』
蒼太は察するや否や早口でお断りの言葉を捲し立てると二の句を次がせる前に素早くインターフォンを切った。
その声を聞き付けた霧子がおたま片手に顔を覗かせる。
「宗教かなにか?」
「うん。なんか変な人だった」
「へー。こんなところにも来るものなのね」
霧子はそれだけ聞くととたんに興味を失い、厨房へと戻った。
「絵でも描こっかな」
蒼太も変なことを聞いてしまったので気を紛らわすためパソコンを立ち上げた。
ピンポンピンポーンピポピポピポピポピポピポ
「だーうっせぇ! しつこい!」
だがその直後、連続して鳴らされるチャイムに蒼太はキレながら立ち上がった。
「お兄ちゃん話つけてきてよー!」
「わかったよ……」
あまりにしつこい勧誘にしびれを切らした蒼太はめんどくさい人との対話にあまり乗り気ではないが玄関に向かう。
そしてドアから半分だけ顔を出した。
「何ですかさっきから……警察呼びますよ」
「そこまで大事にするつもりはないのじゃ! ちょっと話を聞いてほしいだけなのじゃ!」
「お、おぅっ?」
呼び鈴の前にいたのは耳と尻尾がついている和服の幼女であった。
狐のような獣の部位は先が白くなっている。
とてもふわふわで柔らかそうだ。
「どうしたのじゃ?」
「あ、あぁ……何でもないです。それで話とはなんですか?」
そんな感想を抱いている場合ではない。
相手は迷惑な宗教家なのだ。
蒼太はその耳と尻尾に一瞬見とれていたが、自分のようなオタクを露骨に狙った作り物だろうと思い直すと公道で恥ずかしげもなく晒すコスプレ姿に免じて話くらいなら聞いてやることにする。
「いや、わしはここいらの氏神での。なんかおかしな妖気を感じて来てみたらわしのことが見えるお主に出会ったと言うわけなのじゃ。いやはや、これはもはや運命としか言えまい! 是非わしと契約して氏子に――――」
「契約は間に合ってます」
「あっ、待っ――――」
蒼太は話の途中で察すると頭のおかしな子の面倒事に巻き込まれる前にそっとドアを閉めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
何もない和室の中央に一つだけ置かれた机の上で書類と向き合う人影があった。
その者は書類をめくりながらなにやらぶつぶつと唱えている。
癖のあるその声は少女の物だと分かるが彼女が唱えているものはお経の類ではなく呪文のような何かだった。
「件の渡界現象はどうなった?」
その者は突然ピタリと紡いでいた言葉を区切ると虚空に話しかけた。
すると背後の障子戸が開き、そこから葬儀の参列者のような黒づくめの服を着た背の高い女性が現れた。
「現在調査員が対象に接触中ですが対象は童女の姿をした機械の体であり現在のところごく小規模な事象をねじ曲げる程度の能力以外は普通の童女と変わらないようです」
「そ、まぁ本性を隠している可能性もあるから注意は怠らずね。私は忙しいから後は任せるわ」
「御意。黒だった場合はいかがいたしましょう?」
「いつも通りよ。文字通りこの世から消し去ってやりなさい」
「畏まりました」
黒い衣類を身にまとった女性は少女に指示されると開けた障子を閉めてすり足でその場を離れて行った。
「ったく……何でこう忙しい時に面倒事って出来るのかしら」
少女は首を一ひねりすると再び書類に向かい、呪文を唱え始める。
紙の擦れる音と怪しげな呪文だけが響くその部屋は一種の閉ざされた結界のようにただ静かに時を刻んで行く。
きつねみみです。よろしくおねがいします。




