4. エピローグ
サヌキの地。
王城の奥深くにある一室で、一人の男――モーリが横たわっていた。
宰相とサヌキ王の必死の介抱にもかかわらず、モーリの命の灯は確実に小さくなっていく。
薄れゆく意識の中で、モーリが考えていたこと。
それはセトウチの守護のことではなく、魔王への怨念でもなく。
子らのことだった。
長男は暗殺され、長女は行方知れず。
戦に関係のない子供たちにまで害が及ぶのがたまらなく口惜しかった。
だからモーリは最後の力を振り絞って、残された子らを逃がした。次男には名を変えさせ、三男にも新しい名を与え、そして末の娘は今まさにサヌキ王の手に託した。
二人の息子の名にはモーリの痕跡を一切残さなかった。
ただセトウチの大海に守られるように。
何があっても帰ってくるように。
二人には「川」の字をつけた名を与えた。
モーリとして育てなくていい。
モーリの名を継がなくていい。
ただ、健やかに育ってくれればそれでいい。
モーリは薄れゆく意識の中で強く願った。
きっと。
きっとこの子たちは大丈夫だ。
モーリとして気高い血を引いた三人は、それぞれの場所でそれぞれの才を花開かせるだろう。
モーリの名を背負わずとも、己の力で名を馳せるだけの血が流れている。
そしていつか。
いつか三人が揃うことがあったなら。
手と手を取り合い、どんな大きな壁にも立ち向かってくれるはずだ。
一本の矢を手折ることはたやすい。
だが三本の矢を束ねたならば、誰にも折ることはできない。
モーリの血が三つ揃った時。
勇者にすら成し得なかった偉業を、あの子たちは成し遂げてくれるはずだ。
モーリはそう確信した。
モーリの手からゆっくりと力が抜けていく。
サヌキ王が何かを叫んでいるが、もう声は遠い。
モーリの最期は、穏やかな笑みを浮かべていたという。
第5章 完




