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陛下ったら、ウニをほうれん草に乗せるだなんて下品で侮辱で最高です!  作者: ぜんだ 夕里
第4章 ナオアイランド編

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4. ヨシカワの好感度がどんどん下がっていく!!

「はい、それではあなたは仕上げ担当。あなたは溶解担当。あなたは仕分け担当」


 私は錬金術師たちを、気力を()()使()()()()工程ごとに並べてみた。


 溶解が得意な男は溶解だけをやる。

 仕分けが得意な男は仕分けだけをやる。

 仕上げが得意な男は仕上げだけをやる。


 自分の工程が終わったら隣の男に粉を渡す。

 渡された男は自分の得意な工程だけに集中する。

 それだけのことだ。それだけのことなのに。


 結果は劇的だった。


「すごい……」

「こんなに楽になるとは……」


 うめき声を上げる男が一人もいなかった。

 さっきまで「ううううう!」と断末魔のような声を上げていた男たちが、涼しい顔で錬金をこなしている。


 そして全ての工程が終わった時、今までの半分以下の時間で錬金が完了していたのだ。


「これは……錬金術の革命だ!」


 一人のローブの男が声を上げた。


「連続して実行できる錬金術。工程を分けて連続で流していく錬金法……」

「連続錬金法だ!」


 別の男が叫んだ。

 ローブの男たちが一斉にわいた。

 さっきまで掴みかかっていた男たちが今度は肩を抱き合って喜んでいる。


 ……錬金術師とは忙しい生き物だ。



 ◇



「まさか本当にやってのけるとは……!」


 ローブの男たちから報告を受けてやってきた錬金城主は目を丸くしていた。

 私は勝ち誇った笑みを浮かべて錬金城主にびしっと指を突き立てた。


「さあ、これでこの城の労働は楽になったはず!」


 連続錬金法のおかげで一人あたりの負担は劇的に減った。


「錬金術師に無理をさせなくても、多少人数が抜けてもやっていけるはずよ!」


 城主は腕を組んで、少し感心したようにうなずいている。

 ……なんだろう。「やられた!」という顔ではない。

 むしろ「ほう」という顔だ。

 なんていうか……あまり緊張感がない。


 まあいい。勝ったのは私だ。


「鼻水男だけでなく、何人かこの城から出ることが許されるはず!」


 私は錬金術師たちに向き直り、高らかに宣言してやった。


「この城に嫌気がさし、出ていきたい者は名乗り出なさい!」


 私の声が城の広間に響き渡り、錬金術師たちの目が一斉にこちらを向く。


 さあ、遠慮せずにどうぞ!

 私があなたたちの自由を勝ち取ったのだ!


 しかし……誰も手を上げない。なんなら鼻水男すら手を上げない。


 ……あ、あれれれれ?


 私は目をぱちくりとさせた。

 おかしい。なぜ誰も手を上げないの?

 自由になれるんだよ?この鎖から解き放たれるんだよ?


 混乱する私に、ローブの男の一人が何でもないことのように答えた。


「いやだよ。この城を出たら処刑されるもん」


 しょ、しょしょしょ、処刑????



 ◇



「そもそも錬金術師とは、名乗っただけで処刑される代物です」


 ヨシカワが淡々と解説してきた。

 皇帝がいないと、この男はよくしゃべる。


 錬金術はゴミを金に変える素晴らしい能力だ。

 ただし、あまりに素晴らしい能力すぎて詐欺師が多い。

 金に変えたと言って、ゴミくずを売りつける輩が後を絶たなかったのだ。

 あまりに詐欺師が多く、本物はほとんどいない。

 加えて錬金にはただのゴミではなく特殊なゴミが大量に必要で、真偽を確かめる手段も限られている。

 そこでどの国も同じ結論に至った。


 錬金術師を名乗っただけで処刑。


「で、そんな死刑囚たちの流れ着く先としての受け皿がナオアイランドであると……」


 そこまで聞くと見えてきた。


 本物の錬金術師がローブの男たち。

 城主は彼らに錬金術を極める場所を提供して厚遇している。


 そして詐欺師だった者たちがゴミ運びをさせられていた男たち。

 命は助けてもらっている。


 鼻水男は……。


 私がじっと睨みつけると、鼻水詐欺男は冷や汗を流しながら目をそらした。


「なんで教えてくれなかったの……?」


 私がヨシカワに聞くと、ヨシカワは何でもなさそうに言い放った。


「だって、最近姫様に振り回され続けてますからね。ちょっとお灸になるかと思いまして」


 ――どうしよう!

 ヨシカワの好感度がどんどん下がっていく!!


「城主様!いつも錬金術を極める場をご用意いただきありがとうございます!」


 ローブの男たちが城主の元に駆け寄っていた。目を輝かせて、感謝の言葉を口にする。


「この連続錬金法をあなたに捧げます!」


 ……え。私が提案した方法を勝手に捧げなかった?

 確かに私にはいらないものだけれど……。


 城主は葉巻を片手に、にこやかに私に声をかけてきた。


「いやあ!アズキアイランドを見事に改革したと聞いていたが、本当に素晴らしい方法を提案してくれたな!」


 さっきまで傲慢な悪徳商人の顔だと思っていたのに、なんだか今見ると普通のおじさんの笑顔に見える。

 ――不思議なものだ。


「御妃様にはぜひ今晩はうちで歓待をさせてもらいたい!」


 そして城主はちらりと隅の方を見やった。


「そこの鼻水男は約束通り持って帰ってもらっても構わんぞ?」


 私が鼻水男を見ると、相変わらず冷や汗を流しながら目をそらしている。


 ……いらない。

 ……超いらない。


「万歳、城主様万歳!」


 ローブの男たちが城主をたたえる声が広間に響く中、突然ヨシカワが私の肩にマントをかけてきた。


 なんだなんだ???


「姫様。あなたはまるでまっぱだかと同じぐらい恥ずかしい人ですね」


 ヨシカワは静かに、しかし容赦なく言ってくる。


「早くそのマントを着た方がいい。あなたの様子を皆に見られるのが、俺はたまらなく口惜しいんです」


 ヨシカワがここぞとばかりに私を煽りに煽ってくる。

 暴君のいない城に啖呵を切った愚かな女。

 その恥ずかしさが、今さらのように全身を駆け巡った。


 私は、ひどく赤面した。



 ◇


 その日の夜。

 迎えに来た皇帝と一緒に、錬金城主の歓待を受けることになった。


 私は終始、城主に委縮していた。

 つい昨日まで「ド悪党」と叫んでいた相手に歓待を受ける身にもなってほしい。

 委縮した私に、錬金城主は意外にも友好的に声をかけてきた。


「実際な、サヌキからは錬金術用のゴミをあまり仕入れておらんのだ。仮にここがなくなってもゴミで溢れたりはせん。安心したまえ」


 改めて見てみると、葉巻を吸って趣味の悪い指輪をじゃらじゃらつけているだけで普通のおじさんである。

 処刑から何から、全部茶番だったのだろう。


 ――恥ずかしい……。


 出てきたのは『ママカリの酢漬け』なる食べ物だった。

 小ぶりな身を持ち上げると、酢の香りがふわりと立つ。皮は銀色に光っていて見た目も上品だ。

 一口で頬張ると酢の酸味の後にすぐ白身の淡白な旨味が追いかけてくる。骨のカリッとした食感が白身のしっとり感と交互に来て、これが妙に心地よい。


 ああ……本当に美味しい。

 味が軽いからいくらでも食べられそうだ。


 しかし周りを見渡すと、ローブの男たちは別段感嘆している様子もない。


「いつもの歓待の料理ですね」


 いつもの。

 つまり城主はいつも彼らにこういう食事を振る舞っていたのだ。いかに厚遇されているかが分かる。


 まったく、私はなんて恥ずかしい女なのだろう。

 いっそ錬金術師ではなく、処刑されるべきは私なのかもしれない。


 鼻水が出そうだ。鼻水男のことは笑えない。



 次の日の朝。

 誰だか分からない肖像画を画家に持たされて、港の病気の冬瓜を横目に眺めながら船が出発した。

 ……冬瓜がちょっとだけ哀愁を漂わせているように見えた私は、疲れているのかもしれない。


 私は甲板で一人、大人しく縮こまっていた。

 恥ずかしさのあまり、皇帝の顔がまともに見られない。

 行きの船では隣に並んで海を眺めていたのに、今は手すりの端っこで小さくなっている。


「どうした。前のように鳥と会話をしないのか」


 皇帝が近づいてきて茶化してきた。


「……私、恥ずかしい女ですよね」


 俯いたまま言うと、皇帝はあっさり返してきた。


「まあな」


 ――否定してくれないんだ。


「お前は確かに突っ走った」


 ――分かっているから言わないでほしい。


「でも、そのおかげでナオアイランドはさらに良くなった」


 ――え。

 私は思わず皇帝の方を向いてしまった。


「連続錬金法は間違いなく錬金術の革新だ。お前がいなければ生まれなかった」


 皇帝はいつもの怖い顔で、でも穏やかな声で言った。


「お前はそのままでいいじゃないか」


 そう言って、皇帝は笑った。


 あの笑顔だった。初めて見せてくれたあの笑顔。


 ああ……。

 そんな顔をされると、やっぱりまともに見られないじゃないか。


 私は自分の赤面を、にやつきそうなこの顔を、ヨシカワにもらったマントで隠した。



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― 新着の感想 ―
サヌキからは錬金術用のゴミをあまり仕入れていない。 つまり、ゴミすら出ない? いや、それだけ始末してるって事に! ん〜、やっぱこの皇帝様、好きな子いじりしてるような気がするな〜、イジメじゃなくてあ…
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