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陛下ったら、ウニをほうれん草に乗せるだなんて下品で侮辱で最高です!  作者: ぜんだ 夕里
第1章 サヌキ編

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2. あんたたち人として間違ってるよね

「いやだって普通は影武者なんか使わずに別の姫を嫁がせるべきじゃありませんか?」

「そもそも私みたいな醜女が嫁ぐのはおかしいですって!」


 私の訴えは却下され「王命は絶対なのだ」と言われてあれよあれよと言う間に花嫁支度をさせられる。

 混乱しつつ必死に騒ぐ私の肩に宰相閣下が手を置き、にこやかに言ってくる。


「王命なのだからどうしようもないのだ諦めなさい。サヌキ王国の命運は君に託されたよ」


 ねえなんで適当な侍女に王国の命運を託せるの!?

 そう思っている私に宰相閣下が爆弾を投下してくる。


「何せ僕が宰相になったのも、うどん子農家をやっている時に来た王様が『お前今日から宰相な』って言ってきたからだし」


 前例があったのか!!


 ねえ私をからかっているわけじゃないよね?

 あんなに市井では名君として名高い王様なのに実は適当に政治をやってるんじゃない?

 ああ、誰か嘘だと言ってくれないかな?


「たぶん国王陛下が決めたのだから大丈夫だ」などと全く当てにならない慰めをしながら、宰相閣下が真面目な顔をして言ってきた。


「だが……ムラカミ帝国では初めての食事で相手を試す風習があるらしい。出された料理にどう反応するかで人間性を見抜くのだとか。くれぐれも姫として堂々と対処するように」


 そんな不安になることを言ってバカじゃないの??

 まるで人の心と言うものが分かっていない。こいつ本当に宰相として仕事してたのかな??


 私が誇り高きサヌキ王国だと思っていたものが足元から崩壊していくようだ。この国からムラカミ帝国に嫁ぐのは意外と悪いことではなかったのかもしれない。

 ……いや真っ当に嫁ぐのではなく影武者として嫁ぐのであった。

 ああそんなの信じたくない!


 さてそんなポンコツ宰相閣下だが私をムラカミ帝国に送り出す前夜には盛大な宴を催してくれた。

 ……ポンコツのくせにこういうところだけ気が利く。

 少しだけ愛国心を取り戻した。


 宴の料理として出されたのはうどんのフルコースと王族の催事でしか供されないと言う「骨付バード」。この国でうどんの次に偉い食べ物だ。

 一度は食べてみたいと思っていた御馳走だが、その一度が影武者として嫁ぐ前夜であってほしくはなかった。


 絶品だがやたらと味の濃い骨付バードは食べるとそのしょっぱさからお酒が進む。

 完全に酔っぱらった私は「あんたたち人として間違ってるよね!?」などと国王と宰相を罵りに罵った。酒の場では無礼講だ。

 それにどうせ明日には皇帝の元へ嫁ぐ身、今さら遠慮しても仕方がない。私の罵倒にも二人は涼しい顔で「まあ頑張りなさい」などと笑っていた。


 こいつらポンコツのくせに肝だけは無駄に据わっているというか……。


 罵り疲れた私はいつの間にか眠ってしまい、次の日は二日酔いのままムラカミ帝国へ向かう船に乗ったのであった。



 ◇



 ムラカミ帝国から迎えに来たという船に乗り、重い頭を抱えながら始まった私の初めての海の旅。

 海賊の国と聞いていたから、正直もっとこう……荒くれ者たちが操舵するものだと想像していたのだが。


「コムギ姫様。足元にお気をつけください」


 案内してくれた船員は丁寧な物腰で私の手を取ってくれた。

 ……あれ?


「船酔いなどされていませんか?よろしければこちらの薬湯をどうぞ」


 二日酔いで青い顔をしている私に船員が温かい薬湯を差し出してくる。

 ……あれあれ?


 海賊と言うからてっきりタコに生でかぶりつくような粗暴な男たちに囲まれるかと思っていたが。なんだろうこの慇懃な接客は。

 まるで高級旅館だ。


 甲板から見えるセトウチの海は穏やかに凪いでいて水面がキラキラと光っている。二日酔いさえなければ最高に気持ちのいい船旅だったかもしれない。


 こんなに紳士的な人たちが仕える国の皇帝なのだ。案外ムラカミも話の分かる優しい人物なのではないだろうか?

 噂なんてものは尾ひれがつくのが世の常だ。きっと実際に会ってみれば「なんだ、意外といい人じゃないの?」と拍子抜けするに違いない。


 ――などと期待した私が馬鹿だった。



 帝城に到着し、長い廊下を歩かされて謁見の間へと案内される。

 そこで私は異変に気付く。あんなに優しかった船員たちが城に入った瞬間から一言も口を利かなくなったのだ。

 ……あれあれあれ??


 嫌な予感を抱えたまま皇帝の前に立った瞬間、先ほどまでの甘い期待がなんとも都合の良い夢だったのだと思い知らされた。

 玉座に座っていたのはこの世の終わりそのものだった。


 異常に整った顔に貼りつくのは刃物のように鋭い目つき。

「肉襦袢でも着ているのかな?」と思わず再確認してしまう巨躯。

 空気そのものが凍りついているかのような圧。


「睨みつけられて気絶した人がいる」という噂を、私は盛りすぎだと笑い飛ばしていた。

 しかし今まさに私はその視線で殺されかけている。


 ――皇帝ムラカミ。それはセトウチの荒波がそのまま人の形をとったような男だった。



 ◇



 ああ私の人生はここで終わりだ。

 拝啓お父様お母様……はいなかったな。物心ついた頃にはもう侍女だった。

 きっと私は「ひどい醜女だね。死刑」とばかりにこの恐ろしい男にセトウチの海に沈められて終わるのだ。

 せめてもの救いはセトウチの海が綺麗だったことだろうか。


 ああ来世はカキになりたい。死ぬまでぬくぬくと岩場に張り付いていたい。


「ふむ」


 皇帝ムラカミが口を開いた。その声には深い海底のような冷たさと重さがあった。

 私は一言聞いただけで昨日の骨付バードを戻しそうになった。


「サヌキとの政略結婚だ。白いうどんのような女が来るものとばかり思っていたが……」


 ああやっぱり!

 私みたいなそばかす醜女が気に食わないのだ。この強面も「やっぱり殺そう」と思っている顔なのだ!

 愚かな国王様お恨み申し上げます。あなたの浅はかな影武者政策で私もサヌキもおしまいです。

 せめて来世のカキ生活に備えて静かに海に沈めてほしい……。


「――なかなかの美人が来たようではないか」


 ……え?


「正直、期待はしていなかったのだがな。健康的で良い娘ではないか」


 世にも恐ろしい声はそんなことを言い出した。

 まさかあの耄碌じじいが言っていたことは本当……?そんな都合のいい、間抜けなことはあるだろうか?

 二日酔いがまだ残っていて幻聴でも聞こえているのかもしれない。


「前に謁見に来たサヌキの女は白粉を塗りたくった餅のような女だった。あれでは船の国の妃は務まらない。お前の方がよほどいい」


 そう言った海底の声は嘘をついている様子ではなかった。

 まさかこれは――ひょっとしてひょっとするんじゃない?


 サヌキ国王の言うことが本当だったのね!

 この国は私のような醜女をありがたがる訳の分からない国かもしれない!


 ありがとう耄碌じじい!

 棺桶に片足を突っ込んでありもしない幻覚を見たのだと思っていたけれど、意外としゃんとしてたのね!


 いや感謝する意味はないか。

 なにせ私を影武者に仕立て上げたのだ。末代まで呪っていいレベルだろう。


 ……などと緊張のあまり頭の中で思考が跳ねまわっている間にも、皇帝の視線は私を射抜いたままだった。


「しかし解せんな。サヌキでは白く恰幅の良い女が美人とされているはず。なぜ王族であるお前がそのように細く健康的なのだ?」


 ――ひい!


 急な疑いの言葉によって私の思考たちが現実に引き戻された。

 皇帝の問いに答えられない姫など不審の極みだ。「しゃべらぬなら殺してしまえ」と首が飛びかねない。

 サヌキで口裏合わせをした台詞を言うんだ!


「今、サヌキでは『野菜も食べんといけん政策』を実施中です。私が率先して野菜を食べて国民にお手本を見せているのです」


 緊張のあまり思ったよりも冷たい声が出た。

 しかしなぜかそんな私の返答を聞いて皇帝は笑って見せたのだ。


「ほう、面白い。大抵の女は俺に声をかけられると失神するか言葉が出なくなるか……。お前は胆力もありそうだ」


 そう言ってくつくつと笑う皇帝。

 まさか返答の内容ではなく返事をしたこと自体に興味を持たれてしまうとは。


 でも確かにこの顔を見るまでは「なにを大袈裟な」と思っていただろうが、今は納得できる。

 その恐ろしい笑い声を聞くと、私だって処刑されるまでもなく全身の毛穴から血が出て気絶しそうな気分だもの。


 ……むしろこの皇帝自体が生活に不便しているのではないかしら?


 私が思考をまた跳ね回らせて強面皇帝を憐れんでいると、彼は笑いながら続けて言った。


「まあ良い。実際にどんな女であるかは今日の夕食で分かるだろう。下がれ」


 その言葉を聞いて私は一瞬で背筋がピンと伸びる思いだった。


『ムラカミ帝国では初めての食事で相手を試す風習がある』


 ポンコツ宰相閣下の言葉が蘇る。

 この強面不便皇帝に試されるという、その事実だけで私は気を失いそうになる。


 しかし必死に足に気合を入れると「失礼します」とだけ声を出し、伸びた背筋でコチコチになりながら退出したのであった。



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― 新着の感想 ―
農家の子から宰相に! もしかしてこの王様、この国においては第六天魔王様? しっかし酒のんでクダまくって、年頃の女の子としてはどうでしょう? おもしれー女あつかいされる、未来しかみえない。
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