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陛下ったら、ウニをほうれん草に乗せるだなんて下品で侮辱で最高です!  作者: ぜんだ 夕里
第1章 サヌキ編

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1/5

1. めちゃくちゃ言うんじゃないですよ耄碌じじい

「コムギ姫が甘露の病に侵された!」


 そんな悲鳴がサヌキ王国の宮中に響き渡った。甘露の病――要するに糖尿病である。

 原因は明確だった。姫がうどんを食べ過ぎたせいだ。


「ふむ。では影武者を立てねばなるまいな」


 そう言って国王は姫の侍女であった私――ツユを鋭い眼光で睨み据えた。


 ――私?

 私の人生の歯車が大きく狂った瞬間である。

 なぜこんなことになったのか。順を追って説明しよう。



 ◇



「今日のうどんの至高なるのど越しとは裏腹に最低の知らせであるな……」


 国王がうどんを食べながら重々しい口を開く。

 ……いやうどんを食べていたのだからずっと口は開いているのだけれどそれはともかく。


 ここサヌキ王国では平民から王族まで皆がうどんを3食食べる。誇り高き王族に至っては毎日10食だ。

 なぜそこまでうどんに執着するのか。この国は痩せた大地に「うどん子」と呼ばれる植物だけがにょきにょきと生えるばかりで他にはろくなものが育たない。

 食べるものもない中「なんとかこのうどん子を食してやろう」と先祖が試行錯誤した結果生まれたもの――それがこの国における絶対の郷土料理「うどん」である。


 貧しい土地の作物だと馬鹿にされながらもそれを食して生き抜いてきたハングリー精神。これがサヌキ王国の誇りなのだ。


 しかしこの誇り高きうどん食には大きな落とし穴があった。

 うどんばかりを食べていると甘露の病に侵されるのだ。


 国民の多くが甘露の病に侵される中、名君である国王は苦渋の決断を下した。「野菜も食べんといけん政策」である。

 うどん馬鹿のこの国の王族がうどん以外のものを食えと言い出したのだ。これがどれほどの英断であったことか。


 王族がうどんへの誇りよりも国民を慮ることを優先した瞬間だった。


 国民は総出で「なんて名君なんだ!」と涙を流しながらうどんと一緒にほうれん草やキャベツを食べ、ついには国民病であった甘露の病を乗り越えた。

 そんな歴史がこのサヌキにはあるのだ。


 こうして国民の健康が持ち直したのだが、やはり新しい政策とはどんなものであれ反感を買うもので。


「うどんの他にほうれん草を食べるなど下賤!ワタクシに対する侮辱ですわ!」


 そう言って私が仕えていたコムギ姫は野菜を拒み続け、毎日うどんのみを12食おいしそうに食べた。結果、見事に甘露の病を患ったのであった。

 本来であれば「やっぱり野菜も大事だね」で終わるだけの話なのだがこれは国を挙げた大きな問題となる。


 それはなぜか?

 姫はかの傍若無人な皇帝ムラカミに嫁ぐ予定であったからだ。


「姫の代わりに影武者を用意しよう」


 国王は先ほど私が名君と誉めたことを覆すように、ワケの分からないことを言い出した。


 影武者?

 もしバレたらこの国が大変なことになるのでは?


「しかし陛下。そう都合よく影武者など見つかるはずは……」


 宰相も困惑した顔でうどんを啜りながらそんなことを口にする。

 サヌキ王国の会議ではうどんを啜りながら行うことが正式なスタイルとなっている。ずずっ、ずずっと周囲から麺を啜る音がする。

 うどんを啜る音で同意するなよとも思うが、重臣たちも同じ気持ちのようだ。


「ここに、おるではないか」


 そう言って国王がびしっと私をフォークで指す――言い忘れていたがこの国の貴族はフォークでうどんを(みやび)に食す。


 ……え?


「この娘――ツユと言ったか。彼女は我が娘に似ていると思わんか?」

「いえ全然」


 私が即答でそう言うと、周囲の重臣たちからも同意するようにずずっとうどんを啜る音が聞こえてきた。

 それはそうだ。毎日12食もうどんを食していた姫と一日三食の私では体格が違いすぎる。


「コムギがもしも痩せていたら?」

「似てないと思います」


 私は再び即答した。周囲の重臣も先程と同様にずずっとうどんを啜った。

 なにせ姫は高貴な王族として外にもあまり出ず室内でうどんを雅に啜っておられたお方なのだ。うどんのように白い肌を持っていた。

 対して私はそばかすが頬に散らばる女。このサヌキ王国ではそばかすは「うどんの大敵」として忌避される存在なのだ。

 あのうどんの化身のような姫と比べるべくもない醜女なのだ。


「目をつぶって半分寝ていたら!?」


 国王はカッと目を見開いて私を射抜いた。王族の目力に押された私は一歩後ずさった。


「似てる、かなぁ……?」


 確かに目をつぶって半分寝ていたら、声をかけてきたのが男か女かくらいしかわからないだろう。

 つまり私が姫に似ているのではなく、人間は目をつぶれば大体みんな似ているということではないのか。

 だがまあ、そこまで譲歩したら姫と間違ってしまうこともあり得る……か?


「そういうことだ」


 いやどういうこと?

 私と重臣たちは頭にはてなマークを浮かべながら呆然としてしまう。あまりに突拍子もない話の流れに周囲のうどんを啜る音ですら止んでしまっているではないか。


「この娘を影武者としてムラカミの元へ派遣する!」


「「「正気ですか陛下!?」」」


 重臣と私の声が重なる。重臣の一人がフォークを取り落とした。


 その動揺も当然だ。この国には私より姫に似ている女性なんていくらでもいるだろう。なぜ「似てないと思います」と二回も言った女を選ぶの?

 そもそも政略結婚で嫁ぐのはさすがに侍女じゃなくて王族の仕事では?


「静まれい!!!」


 国王の威厳に満ち溢れた一喝で周囲の重臣はビクリと体を震わせて静まり返る。


「……この国の美人といえばどんな女だ」


 急な王の質問に宰相は戸惑いながら答える。


「それは姫のようなお方です。うどんのごとき白い肌。コシがありそうなむっちりとしたスタイル……」

「そうなのだ。それが問題なのだ」


 国王はそう言いながらため息をつく。美人と言えばまさに姫のような女性だろう。少なくともこの国ではそうだ。


「どうやら他国では違うようでな。ムラカミ帝国ではこの娘のように健康的な肌色にくびれがあるスタイルが美人らしいのだ」


 ……私が?

 このそばかすだらけの私が?


「そんな馬鹿な!!」


 周囲の重臣が叫んだが、一番そう叫びたいのは私の方だった。


「我が王族は皆うどんのような体型をしておる。これでは恐るべきムラカミへ嫁いだ瞬間に切り捨てられかねんのだ」


 そう言って国王が身震いをする。周囲の重臣も押し黙ってしまった。


 ムラカミが恐れられるのには理由がある。我々の目の前に広がるセトウチ海を牛耳りすべての船から通行料を取るのがムラカミ帝国なのだ。


 なぜこんな傍若無人が許されるのか?

 それはムラカミがあまりに強すぎるからだ。


 彼らは卓越した操舵技術と最新式の高火力船舶で他国の海軍を圧倒した。なんと東の国にいる六代魔王『オダノブ』すらも退けたというのだ。

 彼らに睨まれた国は潰される。周辺では最も国力のある我がサヌキですら例外ではない。


「姫のそばに常に仕えて彼女の行動を模倣できるお前しかおらんのだ。我が国の命運はツユ、そなたにかかっておる」


 ……なんだろう。うどんのような姫様よりも私のようなそばかす女がモテるなどと言ってくるし。

 ついにこの国王も耄碌してぼけてしまったか――いやそれはさすがに思うだけでも不敬か。


「とにかくそういうわけだから頼んだぞツユ。いや、コムギ姫!」


「めちゃくちゃ言うんじゃないですよ耄碌じじい?」


 不敬だとわかっていたのに思わず口をついて出てしまった。


「いやこれは王命である!では頼んだぞコムギ姫!」


「ちょっと待ってください!そんなことできるわけ……」


 私の悲鳴はむなしく聞き流された。



 ――こうして私はムラカミ皇帝に影武者として嫁ぐことが決定したのであった。




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― 新着の感想 ―
うどんのような体型とは(笑)12食食べれますかね?糖尿病になる?色々が面白いです。ブクマしました。
それしか食べる物の無かった国。 確かにハングリー精神の賜物で、食べられる様にしたのだろう事は、素直に称賛できる。 だって、日本人だもの。 それはともかく、12食? そ れ がそもそもおかしい! …
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