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陛下ったら、ウニをほうれん草に乗せるだなんて下品で侮辱で最高です!  作者: ぜんだ 夕里
第4章 ナオアイランド編

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1. ヨシカワが全部悪い

 

 私は激怒していた。

 必ずかの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)な悪徳商人を除かねばならぬと決意した。


 私には政治がわからぬ。

 私はただの侍女である。

 影武者として皇帝に嫁ぎ、ウニホーレンを食べ、勝麺を生み出し、セトウチの海を眺めて暮らしてきた。

 けれども悪に対する怒りならば人一倍に持っている。


 ――さて私がここまで怒り狂っているのには理由がある。


 目の前の男は上等な葉巻を吸い、煙を盛大に吐きながら言ったのだ。


「やっぱり世の中(きん)だよ(きん)(きん)を牛耳るわしが世界を牛耳っているのだ!」


 この男が何者なのか。

 私の怒りと共に説明してやろうじゃないか。



 ◇



『アズキアイランドを見事に立て直したと言われる御妃様にぜひ謁見したい』


 そんな手紙が諸侯から届いたのは島から帰ってしばらくした頃のことだった。

 やたらと長ったらしい貴族言葉で書かれた文章をヨシカワに要約してもらう。

 知り合いも少ないはずの私に手紙が届くから何事かと身構えていたのだが。


 ふむふむ。

 なるほど……。


 却下。


 そう思って放っておいたら同じような内容の手紙が追加で三通ばかり届いた。


「文章を要約するヨシカワが悪い」

「なんで俺が悪いことになるんですか」


 ヨシカワが四通目の手紙を要約しながらため息をつく。


「……そもそもお披露目もしてないのに島で大暴れする姫が悪いんですよ」


 ヨシカワの言い分は正論だったが、私が島で大暴れしたのもヨシカワが悪い。

「油を塗ればいい」とか「この油もすごい」とか言い出したヨシカワが全部悪い。


 しかしこれは私にとっては由々しき問題だ。

 諸侯に会えばコムギ姫の知り合いがいるかもしれない。

 なんとか諸侯たちに会わない方法はないものか?


 何をどうすればいいかは決まっていないが、とりあえず皇帝に相談しよう。

 そう思って執務室で書簡に埋もれた皇帝に会いに来たのだ。


「実は文官からも上申が来ていてな」


 皇帝は私が手紙を手渡すと、とんでもないことを言いだした。


「婚姻のお披露目をまだしていないだろう。せめて肖像画を描いて諸侯に配るべきだと言われている」


 肖像画。


「肖像画を描いて、配る」


「そうだ」


 ――却下!!


 コムギ姫を知っている諸侯のもとにそばかす顔の肖像画が届いた瞬間「誰だこの女?」となって終わりだ。


「皇帝陛下。肖像画を描くと魂を吸われると言いますよ」

「本当にそうなら、今頃俺は三回ぐらい魂を失っているな」


 皇帝は笑ったが、こちらは笑い事ではない。なんとしても却下しなければならない。


「私のような醜女の絵を描いたら画家の目が潰れますよ!」


 必死の抵抗だった。しかし皇帝は怪訝な顔をして言った。


「いや、別に醜女というわけではないぞ。むしろ――」


 そこで皇帝は言葉を切った。

 むしろ……。むしろなんだ。


 しかし皇帝は続きを言わなかった。

 ちらりとこちらに目をやり、何かを考え込むようなしぐさをする。


「……そういえばサヌキの出身だったな」


 何かを納得し、皇帝は腕を組んで続けた。


「だがそうだな。恥ずかしいということであれば方法はある」

「方法?」

「ナオアイランドという島がある。芸術家の島と呼ばれていて、高名な画家が多く住んでいる」


 高名な画家が描くのであれば、むしろバレやすくなりだけれど……。


「あそこの画家は抽象的な絵を描くことで知られている。肖像画を頼んでも誰だか分からないような絵になるだろう」


 誰だか分からない肖像画。

 それは肖像画としてどうなのかという疑問はあるが。

 誰だか分からないならコムギ姫と顔が違っても問題にならない。


「そこに行きましょう!」


 私が食い気味に答えると皇帝は呆れたように、しかしどこか楽しそうに言った。


「……決まりだな」


 皇帝がそう言った。

 なんだか最近、こうやって皇帝とどこかへ行く流れが出来上がりつつある気がする。



 またしても約一日ほど船に揺られたが、船旅にもすっかり慣れてしまった。

 たどり着いたのはナオアイランド。芸術家の島と名高い島だ。


 船を降りた瞬間、この島が他とは違うことに気づく。

 港のど真ん中に巨大な造形物がどっしりと鎮座しているのだ。


 人が丸ごと入れそうなほど大きいその像は鮮やかな緑色をしていて、丸みを帯びた形をしている。


 ――なんだこれ?

 よくわからないが不思議と目を引く奇妙な魅力がある。

 これが芸術というやつなのだろうか。私は感心しながら足元にあった小さな立て札に目をやった。


『冬瓜』


 冬瓜って、あの食べる冬瓜?

 確かに言われてみれば冬瓜の形をしている。

 しかし表面全体に毒々しいほどの黒いブツブツの斑点が入っているではないか。

 これが本当の冬瓜ならば、間違いなく重篤な病気だ。絶対に食べられない。

 農家が見たら即座に畑から引っこ抜くだろう。


 しかし貴族らしき人物がお付きの者を何人も連れて、この病気の冬瓜をじろじろと眺めている。

 腕を組んで深く唸ったり、感心したように首を傾げたり。

 どうやら高名な芸術家が作ったものに間違いないらしい。


 うーん。

 私にはただの病気の冬瓜にしか見えないのだが、芸術とは分からないものだ。


「高名な芸術家たちは港の反対側に住んでいる」


 病気の冬瓜から目を離せない私に皇帝が声をかけてきた。


「だがその前に、この島の重鎮に挨拶をしてからだ」

「重鎮?島長ですか?」

「いや」


 皇帝は島の中心部にある小高い丘の方に目をやった。


「この島では島長よりも偉い商人がいる。島長すらひれ伏すほどの権力者だ」


 島長よりも偉い商人?

 島で一番偉いから島長なのでは?


「それはどんな商人なのですか?」


 私が尋ねると、皇帝は相変わらず怖い顔で口を開いた。


「ナオアイランド錬金城の城主だ」



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